戦前日本の安全保障 (講談社現代新書)

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  • 講談社 (2013年1月18日発売)
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山県:日露提携により英米への対抗を図る構想はロシア革命により瓦解。そこで日本単独での段祺瑞援助により中国を影響下に置こうとするが、段政権の行き詰まりによりこれも挫折。
原:中国に対しては満蒙を除き基本的に不干渉、経済的手段による交易型産業国家を目指す。英米、特に米の国際的影響力に着目し、提携を考える。また同時に国際連盟による集団的安全保障にも期待。
浜口:原を引き継ぎ、国際連盟やロンドン海軍軍縮条約は「世界の平和維持」のためとして、東アジアでは九か国条約は国際連盟を補完するとして、それぞれ積極的に評価。
永田:国際連盟の実効性には疑問、あくまでパワーポリティクス重視。想定される次期大戦に備えた国家総動員体制の構築、そのための中国大陸からの資源確保の方策が不可欠と考える。

筆者の著作を読むのは初めてだが、原と浜口を評価し、一夕会、後には統制派を悪の権化のごとく考えているのが見てとれる。しかし、関東軍と陸軍中央の中堅幕僚に政策が引きずられていった背景には当時の国民の支持もあったことには触れられていない(本書の範囲を越えるからかもしれないが)。また、現在のアジア大平洋の安全保障を考える時に国際連盟とそれを補完する集団的安全保障としての九か国条約を暗に示唆しているなど、いささか現実と遊離した理想主義ではないか。国際連盟を理想は理想としつつそれでは永久平和は実現できないとした永田の認識が、その後の国際政治の展開と戦後の国際連合まで考えると最も正しかったのではないか。山県は国外出兵時には国際協調を重視していた、また永田や武藤章は後には国民政府との協調や不拡大を重視するようになった、という評価もある。本書は4人の構想をざっとつかむには良書だが、絶対視はしない方がよいと考える。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本
感想投稿日 : 2013年5月9日
読了日 : 2013年5月9日
本棚登録日 : 2013年5月9日

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