謎の独立国家ソマリランド

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  • 本の雑誌社 (2013年2月19日発売)
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いや面白かった。HONZで「読めばわかる!」と紹介されていたが、その通りだった。ソマリアにあるソマリランドという謎の「国」についての本で(しかも長いし)、どうしたら面白くなるのか疑問だったが、全くそんな心配は不要だった。

ソマリランドとは、アフリカ大陸の東端に位置し、サウジアラビア半島の対面でアフリカの角と呼ばれるソマリア北部にある公式には認められていない「国」のことである。ソマリアは、飢餓や内戦、海賊など悪い話でしか取上げられることがない。NPOのトランスペアレンシー・インターナショナルが算定する政府の腐敗度を示す腐敗認識指数でも、2014年度も北朝鮮と並んですべての国の中で最低だと評価されている(※)。ソマリアの内戦は、後に「ブラックホーク・ダウン」という映画にもなったが、国連の平和維持軍活動において撃墜された米軍のヘリの乗員の死体が裸で切り刻まれて引きづり回された衝撃的な事件でも有名だ。ソマリアは、その事件が元で米軍が引き上げた以来、無法地帯になっているというのが、せいぜい最大限の世間の一般的な認知だろう。そもそも多くの人がソマリア自体を知らないというのが現状だ。

ソマリランドは、ここに書かれてあることを信じるならば、そんなソマリアの中で、日本と同じくらい街も平和で民主的な「国」らしい。同じソマリアの中でも、隣の「国」ブントランドでは海賊を当たり前のように営んでいて、さらにソマリアの南部の首都モガディシュ近辺ではまだ激しい内戦が続いているというのに(著者は「リアル北斗の拳」と称していいる)。

そんなソマリランドおよびソマリアに興味を持った著者は、持ち前のバイタリティと現地化力により、政府の人間やテレビ局の人間などを次々と伝手を辿って、海賊国家のブントランドで海賊業の見積もりを取ったり、ゲリラの内戦が激しい南部ソマリアまで行って銃撃されてみたり、といったことまでしている。そして、現地の人たちと、最初はカネのつながりだったものが、最後にはカネではない信頼関係を築きあげてしまう。最後には、著者の方もソマリの一員になりたいと書く。そんな思い込みを込めた著者が書くのだから面白くならないわけがないのだ。

ソマリランドも含め、ソマリアは氏族社会であり、氏族が社会の成立において非常に重要である。それを著者は平家と源氏で説明してしまうのあるが、その譬えに沿った説明はある種天才的でもある。それ以前に、この氏族システムを理解し、自分のものとしてしまうところが凄いのである。

著者の見立てでは、ソマリランドは「国際社会が無視していたから和平と民主主義を実現できた」のだという。下からボトムアップで完成されたハイパー民主主義だとして心から賞賛している。国際社会が認知するソマリアとは全く似ても似つかない現実がそこにある。

そんな尋常ではない行動力のある著者は、早稲田の探検部出身で、これまでも色々と辺境に行って現地化した体験を本にしているようだ。少し読み漁ってみようかなと。

(※) CORRUPTION PERCEPTIONS INDEX 2014: RESULTS
http://www.transparency.org/cpi2014/results

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2014年12月22日
読了日 : 2014年12月5日
本棚登録日 : 2014年12月6日

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