夜明け前 第1部(上) (岩波文庫 緑 24-2)

著者 :
  • 岩波書店 (2003年7月17日発売)
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本棚登録 : 273
感想 : 25
3

島崎藤村の後期の作品。藤村の代表作の一つです。
2部構成で、岩波文庫版ではそれぞれ上下巻あり、全4冊、その4冊が全て400ページ前後あり、とても長い小説です。
藤村の父・島崎正樹をモデルにした、中山道馬籠宿の本陣の主人「青山半蔵」を主役に書かれた小説で、幕末から明治維新までの激動の時代を描き出した作品となります。
『夜明け前』の"夜明け"とは日本の夜明け、明治維新のことであり、その時代に生きた人々の偶像劇となっています。

"木曾路はすべて山の中である" という有名な一句から始まります。
中山道馬籠宿本陣の当主「吉左衛門」と年寄役の「金兵衛」はこの地に生まれ、宿役人として務めました。
参勤交代の諸大名や日光への例幣使、大坂の奉行や御加番集などが通行する街道に本陣はあり、主人公となる半蔵は吉左衛門の倅です。
第一部上巻の本作では、本陣としての仕事に忙殺される様子や、半蔵とお民との婚姻などが書かれています。
また一方で、国学を学び平田門人となったり、鎖国状態の日本にペリーが来航して、日本自体が大きく激動していく様子が書かれるものとなります。

本書は一部の上巻となりますが、はっきりいって読みにくかったです。
幕末から明治維新にかけてが書かれたほぼ歴史小説なのですが、主人公の半蔵は歴史に大きく関わった人物ではなく、一介の本陣の主人でしかないです。
ペリー来航やそれに対応する老中・阿部正弘、困惑する幕府、ハリスの通商条約締結の動きなど、世界が動く様子が書かれますが、それにより本陣の営業に影響が出ることはあれど半蔵自体がそれら事件に関わるわけではないです。
世界情勢と半蔵の生活が並行で進み、一宿役人が分かる範囲、関わる範囲で世界情勢が変わっていきます。
攘夷の動きには半蔵も関心を寄せますが、一部上巻ではその程度であり、これから大きな何かが起きるという予感がありながら、日々仕事に忙殺される内容となっています。
そもそも私自身がこの頃の日本史に関して人一倍疎いこともあって、少し読んでは調べ物をし、調べ物をしては読み進めて首をかしげるを繰り返していたので、非常に難解で読みにくいものと感じました。
中学歴史レベルの知識を持っている方が読めば、感想が変わるのではないかと思います。
具体的には、一部上巻時点で、黒船来航、ハリス来日、安政の大獄、徳川家茂が将軍となり、生麦事件が発生、攘夷の意識が高まり反幕府派の動きが活発になりつつあるあたりの歴史知識が必要と思いました。

歴史小説というにはその動きが主体になく、基本的には半蔵が主役の小説なのですが、先にも述べた通り、動乱の時代で仕事に忙殺される本陣の主人を書いた話になっており、展開としては退屈な文章が続きました。
ただ、現在一部下巻を読んでいるのですが、だんだん時代と半蔵の日々が交差してきているように感じています。
一部上巻時点では上記のような感想ですが、作品としての面白さは全て読むまでわからないので、引き続き下巻を読みたいと思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文庫
感想投稿日 : 2021年6月27日
読了日 : 2021年6月27日
本棚登録日 : 2021年6月15日

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