夜明け前 第1部(下) (岩波文庫 緑 24-3)

著者 :
  • 岩波書店 (2003年7月17日発売)
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感想 : 14
3

島崎藤村の後期の代表作「夜明け前」第一部 下巻。
上巻に引き続き本書も370ページとボリュームがあり、読み応えがありました。
上巻のそのまま続編で、引き続き、幕末から明治維新にかけて発生した色々な出来事を背面に、中山道馬籠宿の本陣の主人「青山半蔵」とその周囲の人々の動きが描かれています。

上巻では、半蔵の出生や婚姻、子の誕生など、半蔵のライフイベントに関する描写が多いように感じました。
下巻の本作では、参勤交代制度も大きく変わり、時代がいよいよ大きく変わろうとする。
そんな中で、国学を信奉していた半蔵も、倒幕、そして王政復古に向けて動き出そうとする展開となります。

上巻の感想でも書いたとおり、この頃の歴史に関する知識が私自身疎いため、勉強しながら読み進めました。
長州・薩摩の攘夷運動、薩英戦争、天狗党の乱、将軍家茂の薨去、慶喜が将軍の座につき、そして、大政奉還、王政復古の大号令が朝廷より宣言されたところで、一部は幕を閉じます。
なお、この頃活躍した人物といえば、勝海舟とともに日本の開国を推し進め、長州藩と薩摩藩の仲立をして薩長同盟を結んだ坂本龍馬が有名ですが、本作中ではそのエピソードは出てきませんでした。
また、幕末の京都では攘夷志士の弾圧をした有名な新選組が活動していましたが、こちらについても書かれなかったと思います。
同じ頃、渋沢栄一は慶喜の幕臣としてフランスに洋行をしていたり、調べれば調べるほどいろんな歴史のうねりがありました。
本作中では、恐らく今後の半蔵の選ぶ道とはあまり関係ないと思われるため詳しく書かれず、尊攘派の動きや倒幕の流れが、半蔵に関心のあるニュースとして書かれるのみです。

いろいろ知らないことを学べた楽しさはありましたが、小説としてはそれら出来事と半蔵に関連は実際のところ薄く、上巻同様退屈を覚えるところが多かったです。
正直なところ、文字を追いながら脳みそは寝ていた部分もあり、読み返したり読み飛ばしたりしながらなんとか読み切りました。
大筋の歴史の流れは頭に入っていたので追えていたと思いますが、この時代の国内情勢を知っていないとかなりきついです。
また知っていても、その歴史的事実と物語の本筋は密接に絡まない(半蔵は倒幕という舞台の役者ではない)ので、盛り上がりにはかける文章が続くものとなります。
ただ、尊王と攘夷は本質的に異なること、そして国学を学ぶ半蔵にとって、倒幕と王政復古は望んだストーリーであることがよくわかり、2部が期待できる終わり方です。
王政復古と開国という2つの、反する部分、共存する部分がある出来事が起こることから、具体的に半蔵が動き出すのは2部からなのかなと思いました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文庫
感想投稿日 : 2021年7月3日
読了日 : 2021年7月3日
本棚登録日 : 2021年6月15日

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