嘘つきア-ニャの真っ赤な真実

著者 :
  • KADOKAWA (2001年7月1日発売)
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感想 : 107
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米原さんは、『オリガ~』を読んで、ああこの人は愛される人だな。と思った。
それまで、この方の小説を読んでこなかったのがちょっと惜しかったかも。

作者がプラハ・ソビエト学校に通っていたころの思い出話から始まるので、どの話もとても読みやすく、帰国後に、友人の現在を訊ねるストーリーは、推理小説のようでもある。



日本人は島国に住んでいるので、地続きの国境を挟んでせめぎあう民族どうしの感情がわかりにくい。という。
ナショナリズムって何?
国際的って、何でも受け入れること?

でも、自分の血って、そんな簡単なものじゃないんだなと、その根の深さに惑ってしまった。


プラハにあるソビエト学校には、共産主義系の国、もしくは共産党のある国から、家族の仕事の都合で引っ越してきた、常時50ヶ国くらいの子供たちが通ってきていて、そこでは誰もが、自分が祖国を背負っている。
祖国から遠く離れているほど、彼らは祖国を深く思う。愛する。

自分がその地を踏んだことがないのに、ギリシャの空の青さをうっとりと語るリッツァ。
チェコの幹部の娘で、その祖国を非常に自慢していたのに、成長してイギリス人と結婚してからは「もう私はイギリス人も同然よ」と語るアーニャ。
自分はそうと思っていないけれど、両親がムスリムだったから、ムスリム扱いされて、友人だった人びとからも無視されて苦しむヤースナ。

自分の国って何?
もっといい部分も、たくさんあるのにね。
自国の政治家をけなす言葉ばかり出るのは、どうしてなんだろうね。


遠い国に行ったら、文化も違う、言葉も違うことに戸惑って、自分が寄って立つもの、自分の存在を証明するものにすがるようになるのは、想像がつく。
自分の体を確かめる。まずは、あるもの。さわれるもの。
自分の体のもとは、両親。血筋。
それから、国。自分が育ってきた環境。土地。
日本は単一民族だなんてバカなことを言った政治家がいたけれど、日本にだって、アイヌの人たちやら、戦争時に奴隷同然に連れてきた人々もいる。そもそも、天孫降臨の話だって、侵略の話であるわけだし。
同じ地に住まっても、彼らを最終的に分けるものは、何か。
宗教。思想。
自分を何かと区別しないでは、自分を確立できない。

今起こっている民族紛争や内紛。
かつての虐殺に端を発して、時代が変わって、偏向した報道でしか情報を知らされなくて。
じゃあ誰が最終的に悪いのか?とは、決め付けられない過去からの歴史があって。


何も知らないことよりも、考えないことの方が、罪が重い。




ものすごく、こたえた部分をいくらか抜粋

ところで日本ではいとも気楽に無頓着に「東欧」と呼ぶが、ポーランド人もチェコ人もハンガリー人もルーマニア人も、こう括られるのをひどく嫌う。「中欧」と訂正する。
……
地理的正確さを期して「東」を嫌がるわけではない。「東」とは第一次大戦まではハプスブルグ朝オーストリア、あるいはイスラム教を奉じるオスマン・トルコの支配収奪下におかれ、第二次大戦後はソ連邦傘下に組み込まれていたために、より西のキリスト教諸国の「発展」から取り残されてしまった地域、さらには冷戦で負けた社会主義陣営を表す記号でもある。
冷戦が終結する中で東西間のからくも保たれていたバランスが、「社会主義陣営」という意味でも「正教文明圏」という意味でも「東」であるロシアの敗北によって崩れた。
ポーランド、チェコ、ハンガリー、ルーマニアの人びとが東欧と言われるのを嫌うのは、後発の貧しい敗者というイメージが付きまとうのがイヤで仕方ないのだろう。「西」に対する一方的憧れと劣等感の裏返しとしての自分より「東」、さらには自己の中の「東性」に対する蔑視と嫌悪感。これは明治以降脱亜入欧をめざした日本人のメンタリティーにも通じる。
この中欧カトリック諸国の「東」に対する嫌悪感が最も著しく表われるのが、同じキリスト教ながら11世紀以降袂を分かち長くイスラムの支配下にあった東方正教に対する近親憎悪的な敵意なのではないか。




ところはユーゴスラビア
再会したマリとヤスミンカ(ヤースナ)

「この戦争が始まって以来、そう、もう五年間、私は、家具を一つも買っていないの。食器も。コップ一つさえ買っていない。店で素敵なのを見つけて、買おうかなと一瞬だけ思う。でも、次の瞬間は、こんなもの買っても壊されたときに失う悲しみが増えるだけだ、っていう思いが被さってきて、買いたい気持ちは雲散霧消してしまうの。それよりも、明日にも一家皆殺しになってしまうかもしれないって」

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2009年11月3日
読了日 : 2009年11月3日
本棚登録日 : 2009年11月3日

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