ゼロ年代の想像力

著者 :
  • 早川書房 (2008年7月25日発売)
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感想 : 73
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著者、29歳くらいだと作中の一言から知ったときのショック。
29歳って、こんなに頭が働くのか……と思ったけれども、その年齢が若いでも年寄りでも問題ではないんだね。
そういう能力がある人は、人に物事を説明出来る能力を獲得したときから、それを伝えられるのだろうし、伝えるべく努力してきたから、伝えられる能力を身につけたのだろうなあ。

小説でもドラマでもマンガでも、取りあげられているものには知らない作品も多かったけれど、サブカルチャーから分析しているので、とっつきやすかった。

そのときどきにヒットする作品は、時代の空気をとらえているとか、たまたま当たったんだろうとかというものもあると思っていた。分析しながら作る人がいるのも知っていたけれど、「ヒットするもの、世の中で今求められているもの」をそこまで考えて作るものだとは思っていなかったので、驚いた。

エヴァのヒットした90年代は、「他人に関わろうとすると、他人を傷つけてしまう。それならいっそ関わらないで引きこもる」という選択肢が許された時代。
「バトル・ロワイアル」がヒットした00年代は、「不条理が当たり前になっているから、引きこもっていては世界に殺される。だから戦わなければいけない」時代。

高橋留美子のマンガは、母性だから、「いつまでもその世界で遊んでいていい」「外に出ていかなくていい」「守ってあげる」だったのが、『犬夜叉』の最後の選択肢は変化になった。
関係性の変化について、山岸凉子の影響下にある少女マンガ家たちが新しいものを獲得して、たとえばよしながふみの「ゆるやかにつながりあう関係」である。
バナナ・フィッシュの吉田秋生は、ゆるやかなつながり→選ばれた才能のみの変化しない、他者による影響のない世界。→ゆるやかなつながりをふたたび求めて。で変化している。アッシュがあそこで死んでしまったのは、それによって英二を永遠に所有するためであるという分析を読んだときには非常に衝撃的でしたね。そうか、あれはアッシュによる所有という見方が出来るのか……英雄を英雄に、美しく、リバー・フェニックスの永遠性と似せて留めるためでなく、か、と。
その後、英ちゃんは確かにアッシュの写真を封印していたし、ニューヨークに留まったけれど……あの解放ですら、英二の中のアッシュをよみがえらせるためなのかと思うと。でも、そこからの変化はあると思うから、この解釈は本編までなんだろうな。

ギャルゲーやラノベの「白痴的美少女」は、世界を得られなくなった「僕たち」が、その世界の命運を握る少女から全存在をかけて愛されることで自分の存在意義を得るものなのである。
『最終兵器彼女』だとか、というのも、おもしろかった。
仮面ライダーにおける、時代性の変化。戦い合うライダー達は、もはや世界の命運をかけているのではなく、個人的事情から戦っているとか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文化・社会・民俗
感想投稿日 : 2013年9月15日
読了日 : 2013年9月15日
本棚登録日 : 2013年8月27日

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