世界文学全集〈31〉シュティフター 晩夏 (1979年)

3.50
  • (0)
  • (1)
  • (1)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 9
感想 : 1
4

小説に描かれた時代は19世紀前半のオーストリア。資産があり、生活に困らないブルジョワジー同士の交流が、全3巻、上下2段組で500頁近くにわたって、たいへんに細かい描写で綴られている。
訳者である藤村宏氏によれば、この小説の評価は「ほとんど極端と言っていいほど、プロとコントラ(賛否)に分かれている」らしく、同時代の劇作家は「この小説を終りまで読み通した人にはポーランドの王冠を進呈しよう」と酷評し、逆にニーチェは「繰返して読むに値する僅かな作品の一つ」として「ドイツ文学の宝」と推奨したとのことだ。
わかる気がする。
酷評される理由としては、①まず小説が「あまりに長い」こと、②登場人物が少ないこと、③特に目新しい事件などが生起するわけではないこと、④作中話題にされていることが美術・建築・文学・植物・地学の微に入り細を穿って表現されていること、などが挙げられよう。
でも、退屈だとおもいつつも、つい頁を繰ってしまうの理由としては、①文化資本がどのようにして身につけられていくのかという過程をつぶさに知ることができること、②当時のブルジョワジーの生活ぶりを知ることができること、③自然の情景描写に優れていること、④作品全体の得も言われぬ上品な雰囲気につい引き込まれることなどが挙げられるのではないか。
個人的には、たいへんに爽やかな読後感が残った。オーストリアの美しい自然と、上品なオペラを見ているかのような読後感であった。
作者のことはまったく知らなかったが、訳者の解説がとても親切で、作者のことのみならず、作品理解にも十分であったことを付け加えておきたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2020年4月19日
読了日 : 2020年4月19日
本棚登録日 : 2020年4月19日

みんなの感想をみる

ツイートする