世界はもっと豊かだし、人はもっと優しい (ちくま文庫 も 19-1)

著者 :
  • 筑摩書房 (2008年3月10日発売)
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感想 : 39
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オウム真理教を被写体にした「A」という映画についての内容が多い。
しかし、当該の映画を観ていなくても十分に通じる内容である。
過去に文芸誌等色々なところで発表されているものを集めているため、内容的に重複することがあった。
しかし、それらは著者が本当に伝えたいことであり、何度でも言いたいことなのだと思う。
例えば、オウム真理教の信者や戦争に加担した兵士たちは、一見凶暴であると思いがちだが、彼らは、私たちと同じ優しい善良な一般市民である。
そして、彼らが人を殺めるのは悪意ではなく、むしろ善意だということ。この一文を読んだ時には鳥肌が立った。
悪意ではなく、善意が人々を傷つけると思うと、やるせない。
けれど、オオム真理教に関していえば、彼らは普通の人々であり、単純に糾弾するだけでは、なにも解決にならない。表面的ではなく、もっと根の部分を見なければいけない。

ドキュメンタリーを撮るということのジレンマは、とても興味深く、著者の立場だからこそ感じる葛藤は、読者の私にはとても引き受けられそうもないほどで、覚悟を持って映画を撮り続けている著者の凄さを感じた。
著者が言うように、たまには一人になって考えることも大切だし、一人称で考えることも大切だと思う。
世界はもっと豊かだし、人はもっと優しいと皆が認識することで世界はもっと良くなるのだろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エッセイ・紀行・旅
感想投稿日 : 2016年9月13日
読了日 : 2016年9月11日
本棚登録日 : 2016年9月13日

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