中勘助の恋

著者 :
  • 創元社 (1993年11月1日発売)
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感想 : 3
5

      -2006.05.08記

ずいぶんと面白かったし、非常に興味深く読んだ。
著者が雑誌「世界」に、折口信夫の歌人としての筆名「釈迢空」は戒名であったと、彼の出自と形成にまつわる謎に挑んだ「釈迢空ノート」の連載を始めたのは98年5月、以後季刊ペースで10回の連載のうえ、これをまとめ岩波書店から出版されたのが2000年10月だが、本書「中勘助の恋」は著者畢生の書ともいうべき折口信夫解読へと、勘助の少女愛と折口の少年愛ともいうべき同性愛的傾向の対照のみならず、女性嫌悪によって成り立ってきた家父長制を色濃く残したまま、近代的自我に目覚めていかざるをえなかった相克のうちに、ともに際立って固有の信仰と性を秘めた特異な作家であった点においても、後者は前者の露払いの役割を果たしているように見受けられる。

中勘助といえば「銀の匙」一作でもって文芸史に聳え立つ孤高の作家と目され、「銀の匙」愛好の裾野はたいへん広いものがある。もう20年近くさかのぼるが、1987(S62)年、60周年を迎えた岩波文庫は「心に残る三冊」というアンケートを、各界を代表する読者に行い、その結果を「私の三冊」として発表しているが、そこで最も多く挙げられたのが「銀の匙」であった、というほどの人気ぶりである。
「不思議なほど鮮やかな子どもの世界-和辻哲郎評-」が描かれ、「これを読むと、我々は自身の少年時代を懐かしく思い出さざるを得ない-小宮豊隆評-」と幼少年期への郷愁が掻き立てられ、「弱くとも正しく生きようと願う人間にとって、これほど慰めと力を与えられる愛情に満ちた作品は稀有-河盛好蔵評-」と静謐無垢なる世界によるカタルシス効果を賞賛されてきた「銀の匙」世界に比して、「郊外その二」に描かれた幼少女への些か異常ともいうべき偏愛は、意想外の対照を示して大いに驚かされる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 評論-3/文芸.芸術系
感想投稿日 : 2012年6月13日
読了日 : 2006年5月8日
本棚登録日 : 2010年10月15日

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