ぼくたちがギュンターを殺そうとした日 (児童書)

  • 徳間書店 (2020年3月7日発売)
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 第二次世界大戦終期から直後にかけて、ドイツ東部から農村へ疎開(というより難民)してきた人々の、ローティーンの子どもたちのお話。難民の子たちは仲間になってつるむようになるけれど、その中に吃音と知恵遅れがあるとされる男の子・ギュンターがいて、彼を疎んじた仲間たちは彼をいじめてしまいます。かなりひどいことをしてしまい、その発覚を恐れた仲間内のリーダー・レオンハルトが、ギュンターを殺す計画を立てます。
 主人公のフレディは葛藤します。もちろんギュンターを殺すなんてとんでもない、良くないことだと分かっています。その上ギュンターは、フレディと一緒にいるときはどもりもなく、元は広い牧場に住んでいたということもあり、馬についての豊富な知識を披露してくれます。けれども、リーダー格のレオンハルトに逆らって計画に参加しなければ、仲間からはじき出され、村や学校での居場所を失います。いえ、計画に参加すれば、虐待する負傷兵の父の元へ送り返されるか、施設送りにされるかのどちらかなのですが……それはギュンターが口を割ってしまった場合も同じです。ギュンターが「ぼくをいじめたのはあいつらだ」とばらしてしまえば、子どもたちは酷い折檻をされる。あるいは問答無用で施設に入れられる。そういう時代です。
 いじめの問題はいつの時代にもありますが、本書の特筆すべき点は、それが戦時下であったこと。つまり、大人たちが戦争を行い、人の命を公然と奪う中で――しかもドイツの話です。障碍者を集めて命を奪うという行為を行っていた状況で、大人たちはそういう情報を子どもたちには隠そうとしていましたが、特に年長の子、レオンハルトなどは知っていました。大人の行動をなぞるようにして、弱者を貶めようとしていたのです。そして、そのような子どもたちの行動に、周りの大人たちは真剣に向き合おうとはせず、臭い物に蓋をするように、「お前がその場にいたなら殴りつけてやる」「施設送りだ」「自分で始末をつけろ」というような言葉で子どもたちを追いつめていくのです。
 この物語は、作者の子ども時代の経験に基づいて書かれた話とのこと。本書は児童書ですが、大人こそ読む価値のあるものです。子どもたちの前で大人がどんな姿であるべきか、考えさせられます。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 児童書
感想投稿日 : 2022年10月30日
読了日 : 2022年10月30日
本棚登録日 : 2022年10月30日

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