Il Nome della Rosa(1980年、伊)。
著名な哲学者の書いた処女小説にして、世界的ベストセラーとなった傑作ミステリー。
…14世紀初頭、欧州。
長期に渡りカトリック教会を、ひいては欧州社会を牽引してきたベネディクト会の優位に影がさしつつあった。
清貧論争をはじめとする異端論争。
のちに近代科学へと繋がる新しい思想の出現。
そして、俗世の新興勢力の台頭…。
そんな中、イタリアの某僧院で、修道士が次々と奇怪な死を遂げる事件が発生する。ヨハネの黙示録になぞらえたかのような猟奇的事件に、フランチェスコ会の修道士ウィリアムと、その弟子アドソが立ち向かう。……
ホームズ&ワトソンを彷彿とさせる、探偵と助手のコンビ。孤立した修道院というクローズド・サークル。ヨハネの黙示録になぞらえた猟奇的殺人は、童謡になぞらえた殺人を描いたアガサ・クリスティ『そして誰もいなくなった』や、ヴァン・ダイン『僧正殺人事件』を連想させる。
ミステリーファンを満足させる本格推理小説の形式を踏襲しながら、しかしこの小説の真価は、ミステリーの枠にとどまらないテーマの多層性にある。この作品を存分に味わうためには、作品そのものを読む前に、どれほど多くの教養書を手に取り、読み尽くさなくてはならないことだろう! 聖書は当然のこととして、中世ヨーロッパ史、思想史、科学史、美術史、哲学、神学、文学などなど。絢爛たる学術的知識が盛りこまれた、非常にペダンティックな作品なのである。(下巻へつづく)
- 感想投稿日 : 2009年8月12日
- 読了日 : 2009年8月12日
- 本棚登録日 : 2009年8月12日
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