著者が人生を通して形作ってきた自分なりの「表現」や「コミュニケーション」に関する考えを、娘が生まれたことを契機に再発見する—著者の人生と父娘関係とが相互作用する様を綴った優しい優しいエッセイ集。
引用「だから今日、娘がわたしに何かを伝えようとしてなかなか言葉が見つからず、もどかしそうにしている時にも、なるべくじっと待つようにしている。(...)彼女の内なる思いの数々は、たとえ空気を震わせなかったとしても、彼女の心の中では確かに反響しているのを知っているから。」
上の引用文は、著者の吃音との付き合いの中で蓄積された体験が、娘を見つめる眼差しに投影されたもの。
著者の文章はフランス語の文章を日本語で読んでいるような、新鮮で懐かしい、不思議な感覚に包まれる文章でした。私は著者と言語的領土(日仏英)を共有しており、かつそれによるアイデンティティの曖昧さに悩んだことも共有しているのですが、それでもなお、著者が考察に駆使する哲学・芸術・情報科学等の知見に対して明るくないからか、著者の感性に他者性を感じながら読み進めました。それをゆっくり咀嚼する過程でじわじわと魅力を感じる、そんな文章でした。
極力まとめてみたものの、多面的で重層的で一言で形容し難い一冊。
例えば興味深いと感じたのは
・守破離↔︎正反合のベクトルの違い
・日本語での自然な会話は対話ではなく共話(能の「小鍛冶」が象徴的とか、いつか見てみたい)
・モンゴルの終わらない贈り物の挿話がすごく良かった
・わかりあえなさは「埋められるべき隙間ではなく、新しい意味が生じる余白である」
- 感想投稿日 : 2021年7月6日
- 読了日 : 2021年7月6日
- 本棚登録日 : 2021年6月6日
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