全編が、一貫したカメラのない、或いはそれゆえに少し出来事から距離が開き、色々な角度で描かれる、ストーリーテリング(ナラティブ)の手法として、興味深い小説だった。
物語自体も、視点が変われば見えるものが変わる、ということを体現するように、ある種の語り手の違いによって異なる「事実」が浮かび上がり、二転三転していくのが面白かった。読み味としては群像劇にも似ているが、直接的に人物の心境が語られるのでなく、資料という形で提示されるため、読者との距離は開いている。視点人物が不在にも関わらず、終始主観による歪みに物語が拘束されているというのは、中々に得難い読書体験だった。
匿名掲示板でなく、ハンドルネームという形で、ある程度のアイデンティファイが成立するSNSで、ここまで赤裸々に、また無責任に発言をするかね、という疑問は読みながら浮かんだが、案外こんなものかも知れないと、読了後、感想をしたためるうちに思い直した。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2024年3月10日
- 読了日 : 2024年3月9日
- 本棚登録日 : 2024年3月10日
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