インセプション [DVD]

監督 : クリストファー・ノーラン 
出演 : レオナルド・ディカプリオ  渡辺謙  ジョセフ・ゴードン=レヴィット  マリオン・コティヤール  エレン・ペイジ  トム・ハーディ  キリアン・マーフィー  トム・ベレンジャー 
  • ワーナー・ホーム・ビデオ
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感想 : 420
5

 ハリウッド版、胡蝶の夢。
 人間にはアイデアがある。アイデアは脳に存在する。更に、アイデアは夢を媒介にすることで、盗んだり、植え付けたりすることができる。夢の世界で行動し、アイデアの駆け引きができる技術の存在する世界でミッションが繰り広げられる、アクションSF映画。
 非常に面白い映画だった。夢落ちは良くない、と数多のクリエイターが口を揃えて言う中、非常に巧みに夢の世界を構築し、尚且つストーリーと組み合わせ物語を成立させている。夢や空想の世界を題材にした映画は、『潜水艦は蝶の夢を見る』や『恋愛睡眠のすすめ』を見たことがあるが、ここまでエンターテイメント性と空想と夢の世界観をマッチさせた作品を作ったのは素晴らしい。ハリウッドの巨額の予算が成せる業、とも言えるが豪華俳優陣やストーリーや世界観の妙があってこその映画でもある。

 あらすじ
 主人公ドム・コブは非合法の手段による夢を介した人間からのアイデアの抜き取りを生業としていた。斉藤からのアイデアの抜き取りに失敗したコブは、逆に斉藤からライバル企業の次期社長の潜在意識にアイデアを埋め込む仕事を依頼される。
 設計士であるアリアドネを初め、必要なメンバーを集めたコブ。コブは標的のロバート・フィッシャーに三重の夢を見させ、自ずと父の会社を分解させる選択肢を取らせるように仕掛ける。だが作戦の準備を進める中、アリアドネはコブの秘密と過去を知る。コブは亡き妻、モルの幻影に未だ囚われたまま、再び愛する子どもたちと再会する日を望んでいた。作戦を決行し、貸し切った飛行機に乗り込みロバートの夢の中に侵入するメンバー。首尾よくロバートを誘拐し、金庫の伏線を敷く。だがロバートは夢への介入の訓練を受けており、武装した人間が夢からロバートを目覚めさせるために攻撃を開始。斉藤は銃弾を受け、瀕死となる。バンに乗り込み逃げながら、更にロバートに夢を見させ侵入する。ホテルの中、ロバートと接触するコブ。夢であることを敢えて明かし、ピーター・ブラウンニングに変装したイームスによって、偽りの遺言状の伏線を敷く。ピーターの夢に侵入し、真実を探るとロバートを騙し、更にロバートの夢に侵入するメンバー。雪原の防衛施設の中核に存在する、ロバートの父、モーリスを目指し行動する。しかし、コブの意識が生み出したモルの幻影によりロバートは銃撃される。作戦は失敗したかに思えたが、アリアドネの提案で虚無の層へ侵入し、ロバートの救出を試みる。
 モルの幻影と対峙するコブ。己の罪の告白とモルと向き合う覚悟を決め、ロバートをアリアドネに託し、死に瀕し虚無の層へ落下してきた斉藤を救出する。ロバートは全ての伏線を回収し、「誤った真実」に辿り着く。全員が目覚めた飛行機は無事着陸し、コブは仕事の報酬として冤罪を晴らすことに成功。子どもたちと再会する。だが夢であることを証明する独楽の回転は、揺らぎはするものの止まることはなかった。

 世界観の妙が際立つ映画だった。夢という曖昧糢糊かつ現代科学を以てしても全てを解析できていない現象にルールを定め定義づけ、伏線を活かす礎にしている。明晰夢という言葉があるが、この映画は明晰夢を実現可能な技術として解釈し、盛り込んでいる。夢とは人間が誰しも見るものだが、思い通りになった試しがほとんどないものだ。起きてから夢だと初めて気付くことも珍しくなく、どう考えても奇妙奇天烈なことばかり起きていたのに、何故夢だと気づけなかったのか不思議でならないと首を傾げることも一度や二度ではない。この映画の設定は夢の普遍的な部分を取り入れつつ、新たなルールを導入することで物語の成立させている。例えば「死なない限り夢から目覚めない。痛みでは目覚めない」や「夢は理想通りに変えられる。ただし、変え過ぎると防衛反応が働き、夢の主を殺すことで目覚めさせようとする」など現実的に考えれば物騒極まりないオリジナルの夢設定を組み込んでいるが、サスペンスやアクションの世界観とマッチするため、その不穏さが気にならない。むしろ、物語を盛り上げるスパイスのように感じてしまう。楽しいゲームの世界のように感じられる、遊び心のあるルール付け、定義付けがされていて、感心する。更に物語を動かす原動力として、アイデアを盗む、植え付けるといった要素が組み込まれている。アイデアの趨勢を物語のミッションの一つとし、更に夢からの脱出もまたミッションの一つとして取り入れ、ハリウッド脚本特有のミッションの遂行並びに脱出に繋げている。テーマに関しても、トーテムという要素を持ち込むことで関連付けるなど、隙が無い。最も優れていたのは、脚本や俳優陣、映像を抑え、世界観だった。
 キャラクターは渡辺謙演ずる斉藤の出番がやや少なめだったものの、美味しいところを持っていくポジションだった。実際には主人公とビジネスライクな関係に過ぎないのだが、傍から見ると熱い友情で結ばれた親友同士で成立するようなシーンで抜擢されている。他のメンバーもキャラが立っており、標的であるロバートは騙される側ではあるものの、有能かつ冷静な雰囲気で好感を持てたのが印象的だった。
 ストーリーは『オーシャンズ11』を彷彿とさせる、ミッション・コンプリート型のストーリーで、主人公たちが標的を騙すためにじっくりと一芝居打つのが良かった。その芝居も窃盗が目的ではないので、標的を一から十まで騙し「やられた!」と叫ばせるものではなく、逆に本人の心を救い感動的な演出までするという、感動を求める映画脚本を風刺したような内容となっている。斬新かつ柔軟な発想で、標的の陥れ方に新たな境地を開いた作品だと思う。相手に答えを見つけさせ、真実だと思い込ませるという手法は、スパイ映画のようでもある。だが感動シーンはロバートとその父の一件だけでなく、コブの斉藤との再会や、子どもたちとの再会もある。どれも伏線を全て回収した巧みな感動シーンであるが、ラストの子どもたちとの再会に関してのみ、独楽が揺れ動くのみ、という現実であることを明確に提示しない不穏なシーンが挿入されている。これは偏に、テーマの一つである「胡蝶の夢」、これが現実か否かというテーマ性を示すものだ。テーマ性への言及まで巧みに練られた脚本ではあるが、胡蝶の夢という題材そのものに古臭さを感じずにはいられない。より普遍的なテーマか、斬新なテーマがあれば更に面白い映画だった。
 映像は申し分ない。夢の世界の崩壊や、無重力のシーンなど、迫力や新鮮味のあるシーンが多数登場する。
 総合的に見て非常に面白い映画だった。テーマと台詞の平凡さがネックだが、それ以外は非常に高いクオリティを誇る映画となっている。全く同じ世界観で続編を作って欲しいと思う出来だった。

キャラクター:☆☆☆☆☆
ストーリー :☆☆☆☆☆
世界観   :☆☆☆☆☆
テーマ   :☆☆☆
映像    :☆☆☆☆☆
台詞    :☆☆☆

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2016年1月31日
読了日 : 2016年1月31日
本棚登録日 : 2016年1月31日

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