漂流の島: 江戸時代の鳥島漂流民たちを追う

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  • 草思社 (2016年5月19日発売)
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感想 : 13
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椎名誠の『漂流者は何を食べていたか』で触れられていたので、手にとってみた。
日本において漂流者の記録が非常に多い島、鳥島。
井伏鱒二や織田作之助、吉村昭らの文学作品で、鳥島における様々な時代の漂流者の物語が描かれているが、しかし彼らの歴史や遺構はほとんど研究されていない。
鳥島は現在、特別天然記念物アホウドリの保護のため、島全体が天然記念物に指定されており、発掘はおろか上陸さえもほぼ不可能となっているのだ。
著者は、時代を重ねて何度も漂流者たちが過ごしたこの島で、彼らが暮らした洞窟や、生活の痕跡を見つけたいという思いから、研究グループの補助要員というかたちで上陸に参加させてもらう。
実際この島は昔からアホウドリが多く生息していたようで、漂流者たちはアホウドリを食べていたという記録が多い。
1697年、日向国志布志(鹿児島)から漂着し、2ヶ月半で船を修理して生還した少左衛門ら5人。彼らはアホウドリの運ぶ(落とす)餌である魚を食べたという。
1720年から漂着し、1739年までの実に19年以上を生き抜いた甚八ら3人。
1785年から1797年の12年を、たった一人となる時期もありながら生き抜き、別の漂流者たちと合流して船を新たに建造し生還した長平。
1841年に漂流し、5ヶ月鳥島で過ごした後、さらにアメリカへ渡ることとなった万次郎。
1887年の鳥島にて見聞記を残し、開拓を行った玉置半右衛門。(開拓といいながら開拓民に支払いもなく、アホウドリの乱獲による荒稼ぎをしていた模様)
彼らは命からがら漂着し、あるいはたどり着いたものの帰るすべを失い、絶望した。しかし彼らは皆、そこで暮らした先人の痕跡や書付を見つけることになるのだ。かつて人が暮らした跡を見つけたときの感動はいかほどのものだっただろうか。
著者は上陸中、彼らが過ごしたかもしれない洞窟を発見する。しかし著者が再度この島に上陸することは不可能のようだ。この本は著者の無念で〆られている。この本がいわば漂流者たちの書付のように、誰かの希望となって思いを繋いでいくことはできるのだろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 図書館
感想投稿日 : 2022年1月15日
読了日 : 2022年1月15日
本棚登録日 : 2022年1月15日

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