賢く生きるより、辛抱強いバカになれ

  • 朝日新聞出版 (2014年10月7日発売)
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 京セラの創立者でありJAL再建で知られる稲盛氏と、ノーベル生理学・医学賞を受賞されたことで知られる山中氏の対談です。お二人が仕事人としての生き方や考え方を議論しながら、そのかたわらでiPS細胞についてもざっくり知ることもできるという本です。

 本書でまず面白いのは、仕事に対する考え方、いわゆる「哲学」と呼ばれることについては、経営者と研究者という立場の違いや年齢差を超えて共通しているということです。
 例えば、山中氏のVW(研究者が成功するにはVisionとWork hardが欠かせない)と稲盛氏の「エンドレスの努力」という姿勢、あるいはみずからの原点を幼少期に見出している点でも共通しています。ですので、お二人が共感しながら話を進めているような印象をぼくは受けました。

 他方で、お二人に共通点が多いからこそ、お二人の考え方の違いや立場の違いが明らかになっているところも興味深いです。
 例えば、自らの研究をマラソンになぞらえてペース調節の大切さを重視する山中氏と、やると決めたら全力疾走で走り抜ける稲盛氏。京セラ所属のマラソン選手に伝えた「トップ集団から離れてはいけない」という言葉もそれを示しています。これは、幼少期から「ガキ大将」としてリーダーシップを発揮してきた稲盛氏と、実用までに長期的な視点が求められる基礎研究に従事されてきた山中氏の違いが出ているようで興味深いです。
 もう一つ興味深いのが、研究者であっても、大学に所属している場合は論文を書かなければ業績を認められず、企業に所属する場合は、逆に論文を書かずに独占したほうがよいということです。iPS細胞の開発競争をめぐってアメリカの企業と係争寸前になったという話がありますが、過酷な世界が垣間見えます。

 ちなみに、表題の「辛抱強いバカ」というのは稲盛氏の言葉です。業績が窮状に陥ると、能力のある人は転職してゆきます。そうして残ってきた幹部の面々と「辛抱強いバカばっかりが残ったな」と冗談を交わしているそうです。稲盛氏の「仕事・人生の結果=考え方×熱意×能力」という方程式に倣えば、能力は平凡だとしても考え方と熱意があるから強く結束し支え合ってきたということなのだと、ぼくは思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2015年12月7日
読了日 : 2015年12月7日
本棚登録日 : 2015年12月3日

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