『最暗黒の東京』、まずタイトルからして驚きます。筆者が最下層の人びとに混ざって生活をすることで実態を描き出していますから、読み物として興味深く、面白く読めると思います。たとえば、宿泊した木賃宿(粗末な宿)で出会った人びと、貧民の住居や生活、客を取り合ってケンカする車夫の様子などが描かれています。
他方でこの本は、商売(この本のいう「経済の原理」)が最下層にまで巣くっている様子が描かれている本でもあります。残飯は本来捨てるものですが、最暗黒に生きる人びとにとっては欠かせない食糧です。しかし、商人が賄方と結託し、残飯をせり買いすれば、貧者は残飯をそれだけ高値で買わなければならなくなる。あるいは、年老いて弱った車夫(人力車を引く人)は安上がりだといって血気のよい健脚車が利用する。「世間の事態逆倒〔さかさま〕なるが如し (p. 124)」という言葉は、この本の重要なテーマでもあるのだと思います。
興味深くもあり、人間臭さが現れていて面白くもあり、しかし笑うことのできない最暗黒の世界がある。このような意味をひっくるめて、面白い本としておすすめする一冊です。
自分用メモ:http://dobons-gate.blogspot.jp/2015/09/blog-post.html
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
未設定
- 感想投稿日 : 2015年9月1日
- 読了日 : 2015年8月28日
- 本棚登録日 : 2015年7月15日
みんなの感想をみる