作家の元に届いた手紙。
そこに書かれていたのは、太平洋戦争で九死に一生を得た父が老いていくにつれて排泄がうまくできなくなり、施設に入った後、首を吊って自殺するまでの話。
明治天皇を慕って自死を選んだ乃木大将と自分を重ねた父、昭和から平成に変わる頃、同じように自死を選んだ手紙の送り主。
死と生に意味を持たせるあまり、難解な迷路にはまり込んだような父子。
---------------------------------------
天皇が亡くなった後に自分も死ぬことで、自分の死に何かしらの意味が出てくるのはわかる。
先日訪れた那須乃木神社では、乃木大将の遺した品々を見ることができた。300円を払って入った宝物館はお世辞にも綺麗とは言えず、ガラスケーズのなかで虫は死んでいるし、カビも生えているし、貴重な品々がわりと雑に展示されていた。
色々と思うところはあるけれど、かつて沢山の人たちから尊敬された乃木大将も月日が経てばこういう扱いになるんだな、と感じた。
死ぬことや生きることに意味があるとして、意味がない死があるとは思えない。
すべての生死に意味がある、もしくはすべてに意味がない。そのどちらかだと思う。
天皇の後を追って死んだからといって何か変わるはずもないんじゃないだろうか。
自分の生死に価値があると思い込むのは自惚れのせいなんじゃないだろうか。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
田中慎弥
- 感想投稿日 : 2021年6月15日
- 読了日 : 2021年6月14日
- 本棚登録日 : 2021年6月14日
みんなの感想をみる