流卵

著者 :
  • 河出書房新社 (2020年2月26日発売)
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感想 : 11
5

病室で死にゆく父を眺めながら、「私」は中学二年生だった頃の記憶を思い出していた。

北村という同級生に心酔してオカルトの世界に没頭するが、彼を見下すようになり、独自のオカルト研究を続けた「私」。

純朴な少女、大山田絵里子に恋愛感情のようなものを持ち、彼女になってような気分でオナニーを愉しんだ「私」。

シンナー遊びを母親に見つかり、叱られながらも女である母の手にもっと叩かれたいと思ってしまった「私」。

逸脱した世界に憧れを持つあまり、魔女になりたい、女になりたいと思い続け、裸になり雑木の森のなかで奇妙な自慰行為をした「私」。

やがて妄想から抜け出して現実を生きることに決めた「私」。

現在、父親が死んだ直後。
五十八歳になった「私」の目の前にいるのは、未だに都合のいい妄想に固執して、記憶を捏造する母親だった。
(誰もいない居間で、全裸で踊り、奇妙な自慰行為をする母を中学二年生だった「私」は目撃している)

母親がおかしければ息子の「私」もおかしくて当然。
妄想世界を捨ててたまるか!
五十八歳の「私」は森に行くことを決める。全裸になり、性器を股に挟んで魔女になることを妄想するために。

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すごいものを読んでしまった。

中学二年生のありあまるエネルギー(性欲)が中村少年に異常な行動をとらせる。女になりきる妄想や、オカルト世界の研究に没頭するあまり、中村少年の友人はいなくなる。
夏休み明け、オカルト世界に彼を惹き込んだ北村晴夫を見限り、大山田絵里子に軽口を叩き、オカルト本や妄想ノートを森に埋めて、中村少年は妄想を捨てる。

夢見がちな少年が妄想を捨てて、現実に根を張る工程を目撃してしまった。感動と失望を同時に味わえた気分。

(五十八歳になっても実は妄想を捨ててない、というラストはどうしようもなさすぎて、感動すら覚えた。母親も父親も味のある変人で、最高に気持ちわるくて、最高としかいいようがない)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 吉村萬壱
感想投稿日 : 2020年6月17日
読了日 : 2020年6月15日
本棚登録日 : 2020年6月15日

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