(*01)
エロスとタナトスとを備えた戦国考証文学(*02)と言えるだろうか。雑誌への100回にわたる掲載という関係もあってお色気路線への脱線が見え隠れする。これは脱線というだけでなく、タナトスである戦場描写とのバランスとしても読み物に必須であったとことと思う。
(*02)
文学であれば一人称(*03)から三人称で済ませるものが、考証パートとして、甲陽軍鑑ほかの史料の引用や検証が文内でなされ、著者の考察も射し込まれている点に文芸の新しさを感じさせる。
(*03)
この著作に描かれたのは近代人としての信玄とその近代性であった。戦略戦法、経営、愛憎において中世的でない刷新者や先進者としての人物像を描き、病魔と野望の桎梏に喘ぐ人間像を結んでいる。その視角や文体が既に近代である。かつての戦記が描いた英雄像を還元し、必ずしも英雄的でないが様々にとびきり優れた人物と手腕として描ききったところに著者自身(*04)の近代的な史観が投影されている。
(*04)
多くの読者から指摘されるように、川中島、桶狭間、三方が原などの有名な合戦に、気象的な要因を読み込むのはこの著者特有のものであろう。また、情報収集や情報操作、血族による婚姻や人質による戦略的な人事、鉱山経営、攻城における工兵や兵站など、経営規模拡大のための諸々も描かれている点で、近代的な読みにも対応したリアリティも付加している。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2016年10月1日
- 読了日 : 2016年9月26日
- 本棚登録日 : 2016年8月19日
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