(01)
高倉健の出演と俳優人生が,本人の手記やインタビューを僅かに含んでいるが,彼と交友関係やビジネス関係のあった人物たちの証言(*02)などで多角的に語られている.
とはいえ,彼が出演した200本以上の映画のうちで,出演本数や配役の大きさからいえば,1960年代から70年代に彼の俳優としてのピークがあり,以降は出演作品を選んでいたためか,フィルモグラフィーからは80年代以降の出演は20本未満を数えるに過ぎないことがわかる.本書には語られることはないが,出演料が高額になったことと邦画の斜陽化もその背景にあったに違いない.
指摘のあるように,彼の三白眼について,出演当初は忌み嫌われており,その後受容されていった経過には社会的な事情と要請も影響したのだろう.その偶然を手にしたにしても,彼の役に対するストイックさ(*03),現場での佇まいは,彼なりの演技メソッドもあったのだろう.陶芸,密教,コーヒーに代表されるような趣味や嗜好は,役へのスイッチや入り方の媒介としての意義があったように思われる.
(02)
野球人,アーティスト,プロデューサーやスタッフなどメディア人,経営者や外交官など交友や影響の範囲は当然ながら広い.『君よ憤怒の河を渉れ』など中国での出演作ヒットもアジア映画史として興味深い様相を示している.炭鉱町から巣立ち,主演俳優となる前の彼の前半生についての証言は少ないが,アジア的アイコンとなる過程として重要な挿話もあったに違いなく,いっそうの俳優研究が望まれる.
(03)
笠智衆との共演作についてのエピソードが国谷裕子との対談で引き出されている.笠は老人ホームの入所者を「怠け者」と撥ね付けており,その印象を尊敬する役者としての笠のイメージの劈頭に掲げていることに留意したい.役者としての孤独や自立,そして世間からの乖離に生じた批評的な余白が,彼らの役づくりのコツであることを告げている.
- 感想投稿日 : 2024年2月23日
- 読了日 : 2024年1月6日
- 本棚登録日 : 2023年6月4日
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