恋するソマリア

著者 :
  • 集英社 (2015年1月26日発売)
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感想 : 95
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早大探検部出身、あの「謎の独立国家ソマリランド」を著した高野秀行氏による同著の続編とも言える1冊。
アフリカ東部に角のように突き出たかつてのソマリア。ソマリア国は1991年に崩壊し、20年以上無政府状態だったその地域に入っていったのが著者の前著だったのですが、本著は更にソマリ世界の深くに入り込んで、どっぷりと浸かっていく印象。
こうして本として読むとまぁとにかく滅法面白くて、しかもこれはフィクションではなく、著者自身が最前線に立っているノンフィクションなのです。もし自分が著者と同じ状況に置かれたとして、同じ行動が取れるだろうか・・・無理です!

例えば、戦闘が続くモガディショの滞在には、護衛の兵士や車代で、1日あたり$500超を払う必要があるのですが、その街を複数回訪れた上で、モガディショ市内を出たい(当然、市外の方がずっと危ない)と思ってそれを実現してしまう…。
著者がそう思った理由などは本著で良く説明されていて、それぞれの個別の理由は実によく筋が通っているのですが、一見道理が通っているミクロの理由を積み重ねていった結果、マクロ的にどう見てもおかしい/危ない事態に陥っている不思議。
外務省の人からしたらマジギレ案件なのかもしれませんが、ソマリアにはもう大使館無いしなぁ…(ケニア大使館が管轄しているようで)。

著者が無政府状態のモガディショを指して表現した言葉は「(電気・水道やネット、交通までが民営で)本当に何でもあり、ないのは政府くらいだったので、私はここを『完全民営化社会』と名付けた。軍も民営化されていると考えれば辻褄が合う。」という表現。
すっごい的確だと思うんですが、自らが危険に晒されている状況下でこういう謎のユーモア表現が出てくるって、凄い。凄いし、笑えるんですが、どこか間違ってるような感も…。

ただ、著者の表現の的確さは他のところでも存分に発揮されていて、例えば「人間関係を形作る内面的な三大要素は『言語』『料理』『音楽(躍りを含む)』」というのは全くその通りだと思うのです。
こういった洞察と、稀有な行動力が生み出す展開、それを的確に伝える表現力、本著ではこれらが三位一体となって、読みだしたら止まらないくらいの疾走感を生み出しています。
著者に関しては、テーマのある研究よりも、好きなものを、著者が旅する中で自由に見て考察してもらう本の方が、面白いように感じました。
完全な非日常を旅した気分になれる1冊。ただ、かと言って「ソマリア行きたい!」とはなかなかならないですが(笑

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2021年8月18日
読了日 : 2021年8月18日
本棚登録日 : 2021年8月16日

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