マルクス・ガブリエル 新時代に生きる「道徳哲学」 (NHK出版新書 645)

  • NHK出版 (2021年2月10日発売)
3.62
  • (5)
  • (11)
  • (10)
  • (3)
  • (0)
本棚登録 : 168
感想 : 4
4

何だか流行っているっぽい哲学者、マルクス・ガブリエル。
実は一度同氏の著書にトライしてみたのですが、哲学の基礎的教養がある前提での文章だったのと、抽象度が高すぎて「並んでいる単語の意味はわかるのに文章としてはわからない」という2つの壁にぶちあたって、読むのを断念しております。。
本著はそんな人にも優しく、対談形式でマルクス・ガブリエルの思想を嚙み砕きながら引き出してくれるので、やっと彼の思想の一端に触れることができた…という気持ちです。
また、本著ではマルクス・ガブリエルの生い立ちにも触れており、幼少期から哲学書と親しみ、高校には「通う必要がなくなり」、大学で取った学位が(学士でも修士でもなく)博士号、28歳で教授…というなんじゃそりゃレベルのハイスペックぶりがわかるので、同氏を理解する意味でも有用な1冊でした。

さて、同氏曰く「哲学は最高レベルの学問」だと。
そりゃみんな自分がやってるコトは凄いって言いたいよね…なんて思いながら読み進めたのですが、そのうち言わんとするコトを何となく理解し始めました。
要は、今のコロナ禍にしても、各学問分野によってデータが取り揃えられていく。これを踏まえて、医療を優先するのか、経済を優先するのか等々を判断するためには、哲学が必要だということ。
哲学が今の時代に果たす役割として、「わからないことをわからないなりに判断するには、哲学が必要」で、「合理的に自分を理解して、合理的に危機を乗り越えるためのツールを与えてくれる」というのは非常に納得感がありました。
その意味では、「○○とは何か」について延々と議論するだけの哲学ではなく、判断ツールとしての社会の中で活きる哲学という位置づけで、確かにそれなら「最高レベル」の意味が肚に落ちてきます。
そして、哲学的観点で今起きていることを本当に理解することの重要性も肯けます。そもそも人間とはどういう存在で、社会はどうあるべきで…から敷衍していくと、「コロナ禍でも国境を閉ざすべきではない」といった具体的政策にまで落とし込まれていく。

この「最高レベル」での判断、という考え方、日常でも生きてくるんじゃないかと思いました。
日々の仕事でも、進むべき道が自明だなんてコトはむしろ少なくて、○もあれば△もある微妙なモノを白黒つけていかないと話が進まない訳で。
マルクス・ガブリエルの哲学は、そのための補助線たりうる存在になるかもしれません。

ちなみに、本著でも読者には一定の哲学の基礎的教養が求められてまして、プラトンの「洞窟の寓話」を取り上げ、「この有名な寓話では…」と語っていたのですが、あぁ…そんなに有名な寓話ってのがあったんですね。。
教養を身に付けるって、果てしないなぁ。。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: なんとなく興味ある圏
感想投稿日 : 2022年3月6日
読了日 : 2022年3月6日
本棚登録日 : 2022年2月26日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする