僕が高校生の時に読んだ小説で最も印象に残っているのが、この『本格小説』だ。
日本から単身渡米し、運転手から自力で億万長者へと成り上がり、アメリカン・ドリームを掴んだ伝説の男のことを、ふとしたきっかけで知ることになった主人公が、富美子という家政婦の物語りを通して彼(と彼が想い続けたある女性)の過去を知る、というものだった。
日本で働いていた主人公が、アメリカで大学教授をしている水村を訪ね、自分が聞いた話を物語ること(「本格小説が始まる前の長い長い話」)からこの小説は始まる。
つまり基本的な構成は、富美子の物語りを聞いた主人公の物語りを聞いた水村の物語り、ということになる(もちろん、それさえも虚構かもしれないが)。
しかし小説の最後、主人公は「伝説の男」と富美子を知る冬絵という女性と出会い、その物語りを聞くことで、富美子が最後まで物語らなかった、彼女と「伝説の男」の秘密の関係について明かされるのである。
『本格小説』は文庫上下巻で1200ページ近くに渡る大長編であるが、最後に少しだけ登場する冬絵の小さな「物語り」によって小説全体の根幹をなす富美子の「物語り」が覆される(とまでは行かずとも、物語り全体に漂う悲しみの正体が浮き彫りになり、またその真理性に疑問を持つようになる)というのは、当時の僕にとって大変印象的であり、今でも忘れられない読書体験となっている。
↑卒論より引用(一人称は変えてあります)。
日本版『嵐が丘』とか言われているようだけど、ていうか僕は嵐が丘を読んだことはないけど、東太郎とよう子の関係はグレートギャッツビーを連想させた。少し削れば剥がれ落ちてしまいそうな時代のきらめき、人びとの大きな野心と小さな恋心(あこがれ)。
読んでから5年以上経った今思い出しても、こころがきゅっとなるような、大切な本です。
- 感想投稿日 : 2011年3月23日
- 読了日 : 2011年3月23日
- 本棚登録日 : 2011年3月23日
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