解説ではBLというジャンルの幅広さと可能性について述べられているので、個人的になぜこの作品が一般文芸として扱われているのか、しばらく考えてみた。
営業職の主人公・松岡が女装でストレス発散していたある夜、中年男に乱暴されそうになって途方に暮れていたところ、どんくさい総務の先輩・寛末に助けられる。
それをきっかけに、寛末に惹かれた松岡は自分の正体を明かさないまま女装をして、寛末との交流を続ける。
化粧映えする女装姿の松岡に惚れた寛末は、猛烈なアタックをするが、松岡が男だと知った途端、手のひらを返した様にひどい仕打ちをする。
寛末をあきらめようと四苦八苦する松岡に対して、これでもか!と空気を読まない寛末は、松岡の前に現れては彼を苦しめ続ける……。
身も蓋もなくまとめれば、そういう物語。
苦しいと解りながらも何故、松岡は寛末を好きでい続けるのか。
松岡は有能営業マンで知的かつ行動的。
所謂、デキる男だ。
片想いに酔うほど、本来なら頭は悪くないはずである。
そもそも恋愛とは苦しいものだ。
恋愛は理不尽なもので、決して答えはない。
ただ苦しい。決して楽しくはない。
その苦しさが全編通して描かれていて、苦しいと解りながらもズブズブと寛末を想い続ける松岡に、読者は
「ああ、こんな気持ちになったこともあったナァ」
とか
「こんな情熱的な恋を一度はしてみたかったナァ」
とか思わせる……ような気がする。
それは古今東西、文学のテーマとして扱われ続けた普遍的なものであり、本作が一般文芸として扱われる理由なのだと思う。
- 感想投稿日 : 2022年1月27日
- 読了日 : 2022年1月25日
- 本棚登録日 : 2022年1月25日
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