下巻。
仲間たちがそれぞれ思う道をもがきながらも進む中、あてどがなく焦る燎平はひたすらテニスに打ち込むが、恋い焦がれていた夏子が別の男性と駆け落ちをしてしまう。歌手を目指していたガリバーや、不動産ビジネスを手伝い始めた端山たちもそれぞれつまずき、仲間の一人は悲しい決断をしてしまう。
完璧に進んでいると見えた仲間たちの挫折を見て、燎平はかえって自身の喪失感を実感し、あらためて自分自身と向き合うことを決心する。
”そして燎平は、自分は、あるいは何も喪わなかったのではないかと考えた。何も喪わなかったということが、そのとき燎平を哀しくさせていた。何も喪わなかったということは、じつは数多くのかけがえのないものを喪ったのと同じではないだろうか。”(P.310)
それは燎平の青春時代が終わった印なのかもしれないし、新しい何かが始まった区切りなのかもしれない。
読み終わってみると、見事なくらいに登場人物たちがきれいに書き分けられていた。読んでいる途中、もがいている若者たちの姿がテレビドラマの『ふぞろいの林檎たち』と重なり、本作のオマージュだったのかと思うほど近いものを感じたが、調べてみると『ふぞろいの林檎たち』は1983年放送開始で、1982年に単行本として刊行された本作とそれほどずれていなかった。
途中までテニスの場面は退屈だったが、下巻のポンクとの試合シーンは手に汗握るもので、迷いが吹っ切れたように精神集中する燎平の心境が刻々と描かれ、スポーツ小説としても読めた。この試合の場面で初めて辰巳先生が登場するのだが、本作で唯一と言える大人の男性なので、せめてちらっとでも上巻から登場させてほしかった。
- 感想投稿日 : 2023年8月31日
- 読了日 : 2023年8月29日
- 本棚登録日 : 2023年8月31日
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