一次資料を駆使したからといって、いい歴史が書けるとはかぎりません。その例が本書に該当すると思われます。基本的に、美樹子はエリザベスをどのように総括し、どう評価すべきなのか、自分でもわかっていなかったのではないでしょうか。エリザベスへの愛情は、いやというほどたっぷり伝わってきます。そういところは好感をもてます。ただ、読んでいて歯痒いのは、書き手の(かすかな?)混乱と迷いが、そのまま読み手に伝わってしまうことです。
読者としては、エリザベスに振り回されるのはけっこうですが、著者にまでそうされると、ただ困惑するばかりです…。もちろん、書きながら考えるのがうまい人もいます。じっくり考えてから書く人もいます。どっちがいいとはいいませんし、それぞれの性格の問題でもあります。ただ、本書に関していうならば、私は落ち着いて読めず、予想より時間をとられました。
あと気になったのは、エリザベスに関係する近いところの資料にばかり気をとられ、英国史全体、あるいは欧州史全体がほとんど視野にはいっていないのではと感じたことです。低地独立の推移など、かなり複雑ですが、ほとんどフォローしていないように感じます。こういうことは本文で言及せずとも、言外に伝わってくるものです。フェリペ二世に関しても、あまり考察されているとは思えません。そうすると、エリザベスの伝記としてはものたりなくなります。外交史の教養が、ストレートにでるのがエリザベスの治世です。美樹子はきっと、外交史には疎いのでしょう。
と、ひどいものいいをしました…。が、ある読者がもしもこの本を手にとって熱心に読んではみたものの、頭のなかが混乱したとしましょう。そのばあい、読者の心がまえとか知性に問題があるのならまあ仕方ありませんが、書き手が混乱しているとすれば、読者も混乱してとうぜんです。その可能性を感じたので書いたまでのことです。他意はありません。。
もっとも、そーかいの頭がメダパニにかかっていただけではないのか? という説もあります。有力説ではないことを祈っています…。
- 感想投稿日 : 2010年9月3日
- 読了日 : 2010年8月10日
- 本棚登録日 : 2010年8月10日
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