セクシィ・ギャルの大研究: 女の読み方・読まれ方・読ませ方 (岩波現代文庫 学術 217)

著者 :
  • 岩波書店 (2009年5月15日発売)
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本棚登録 : 373
感想 : 25
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 案の定、あらゆる意味で「昭和」な本。
 無理もない。本書が初めて世に出たのは1982年。男女雇用機会均等法が成立する4年も前、テレビの中では女性たちがあられもない姿でバカ殿様に弄ばれ(それもゴールデンタイムに)、世間では「アイドルはトイレに行かないしオナラもしない」という神話がまことしやかに囁かれ(トイレにも行くしオナラもする一般女性にはハタ迷惑な神話だったはずだ)、挙句に「据え膳食わぬは男の恥」と誰もが当たり前のように公言して憚らなかった、そんな時代だった。

 だから上野が「女はつらいよ、それに比べて男は…」と手を変え品を変えて主張してても、文化の型を「女っぽい」とか「男っぽい」などと性差の言語でばっさり二分してしまってても、当時の事情を鑑みれば致し方ない。社会的弱者から反乱の狼煙が上がるときは、たいてい現実を故意にデフォルメして一面的な「強者vs.弱者」の図式で語られがちだから。それに、本書はちょうど日本で第三次産業が成熟し、働く女性の権利が社会的に認知され始めた時代のさなかで執筆されたもの。こうした時代の趨勢と上野の分かりやすい構図がぴったりマッチングしたからこそ、本書は累計11万部という驚異的な売り上げを見せたのだろう。

 それだけに、今の目から見れば本書の記述がやや古めかしいのは否めない。何しろ本書にはフロイト顔負けの性欲一元論が溢れ返っているし、(上野自身も2009年の自著解題で認めているように)動物行動学の理論をそのまま無批判に使ってしまったりもしている。今の学界でこんな解釈を披露しようものなら、鼻で一笑に付されるのがオチだろう。
 だがそれはそれ。探そうと思えば本書にも今に通じる魅力がたくさんあるはず。

 たとえば、「父性社会」は力による支配だから弱者の「面従腹背」が半ば黙認されるのに対して、「母性社会」は愛による支配だからかえって面従腹背すら許されず、人の内面を隅々まで支配して無気力な社会にさせかねない、という指摘にはなるほどと膝を打った。人間自身がどこまで行っても不完全な存在だからこそ、葛藤を無理に消し去ろうとする社会より、葛藤をうまく処理する社会の方が断然良いというわけだ。
 一般に母性愛が強すぎると、何事にも受動的で横着な男たちが出来上がってしまう。「面倒見のいいおかあさん」をいい歳こいて求め続けるジコチューで依存的な「潜在型マザコン夫」が。こうした夫に愛想をつかした妻たちは、今度は母として自分の愛のエネルギーを息子に一極集中させるだろう。その過剰な愛が、やがて第二のマザコン夫を作り上げるとも知らずに…。
 要は、これが上野の見る母性型社会の問題点。

 もちろんこの種の文化論的な話以外にも、本書は四方山話のネタの宝庫。これもまた本としての大事な魅力の一つだ。たとえば…

 なぜ口紅はリップスティックという形状なのか。
 なぜ男性のネクタイ姿が多くの女性に人気なのか。

 答えは本書をご覧あれ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ジェンダー
感想投稿日 : 2012年7月12日
読了日 : -
本棚登録日 : 2012年7月12日

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