妻たちの二・二六事件 (中公文庫 M 9)

著者 :
  • 中央公論新社 (1975年2月10日発売)
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感想 : 16
5

何度読んでも泣ける。読み返すたびに胸が痛くなるのは、私の年齢が陸軍将校の妻たちに近くなっていくからだろう。

緻密な取材を重ねた筆者は、妻たちの声や思いをありのまま伝えるために、選び抜いた美しい日本語で綴った。声に出して読めば、物静かな言葉運びの中に、前触れもなく夫に置いて逝かれた妻たちのやりきれない切ない叫びが秘められていることに気付く。

ある日突然逆賊の妻となった若い未亡人。死を目前とした夫たちは、獄中から最愛の人へと最期の言葉を残すけれども、残された彼女たちのその先の苦労を、その中の誰か一人でも本気で考えたのかと不意に憤りを感じた。
(もちろんいないこともないが……)
あの時代を生きた男たちを夫に持った彼女たちの宿命であったと、簡単に言い切れる話ではないことは確かだ。

自分の夫や恋人が数時間後に国家の反逆者になったら……もしもの話を考えても、自分がどう判断するのか分からない。今と価値観が違うから、時代が違うから、想像してもリアルさに欠く。
年老いた妻たちは、もう何十年も前のことを振り返って、血生臭い情勢からほど遠い現代に、一体何を思うのだろうか。我が子や孫よりも若くなってしまった夫を、どう想っているのだろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史
感想投稿日 : 2010年3月13日
読了日 : 2010年3月13日
本棚登録日 : 2010年3月13日

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