紫の履歴書

著者 :
  • 河出興産 (1992年11月1日発売)
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美輪明宏さんの『紫の履歴書』(水書坊)から

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小林先生から、
「丸山さん、あんた誰かを恨んでるんじゃないかい」
御宅へ伺いざま、頭から図星をさされた。
「ええ、でもどうしてわかりますか?」と僕が呆れると、
「私には、何でもちゃんとわかるんだよ。今のあなたは地獄に居るんだよ」
「ええ、まあ地獄と言えば地獄でしょうね」
「何だか、そのわけを話してご覧」
僕が株で騙されたこと、その男が卑怯な奴で僕は七代まで祟ってやろうと思っていることなどを、かいつまんで話した。
「そうかい、それは気の毒なことだったね。でもね、よく考えてご覧、騙されるからには騙される方にもそれだけの油断と慾があるんだよ。万事、人まかせなどにせず、自分の力で身分相応に地道にやっていたとしてご覧。誰からも騙されるに済んだはずだろう。

 たとえ向こうが騙そうかとかかって来ても、“ええ、私はこれで結構です。自分なりに努力してみます”という気持でいたとしてご覧。相手は騙そうたって騙せないじゃないか。相手に人を騙すという罪を犯させたのはあなたの方だよ。気の毒なのは向こうの人なのだよ。あなたは、むしろ、貸しがあっても、向こうの人は、一生あなたに人生の借りを背負って生きていかなければならないんだよ。

 それに比べてあなたは胸を張って大手を振って誰からも指をさされずに生きてゆけるじゃないか。あなたはいい勉強をさせてもらったんだよ。高い月謝だけど、まあいいじゃないか。一度、失敗すれば二度と同じ失敗はしなくなるだろう。

 “すなわち変化(へんげ)の人を遣わして、これがために衛護(えご)となさん”で、きっとその人はお釈迦様を修行させるために悪魔の役を果たした提婆達多(だいばだった)と同じ役目であなたを修行させてくれた菩薩なんだよ。その人に向かって嫌な役目を引き受けてくれて有難うと感謝してもよいくらいじゃないかしらん。あなたが向こうの立場になったとして考えてご覧?向こうの役を演じなくてよかったと思うだろう?その人のことを気の毒だと哀れんでも、決して怨むことは、ないんじゃないかね?」

 私は、ニコニコしながら、ゆっくりと順序よく説かれる先生の言葉の一つ一つが素直に受け止められた。何だか自分が段々と浄(きよ)められていって、尊い仏になったような気持になった。
「どうだい、気持が晴れたろう」
「はい、何か、もやもやしたものが、なくなっていったようです」
「そうかい、それはよかった。それが極楽というものだよ。地獄、極楽はあの世ばかりにあるんじゃない。おのおのの胸三寸にもあるんだよ。スイッチの切りかえ一つで、地獄にでも極楽にでもなるんだよ。それを悟りといって仏になる第一歩なんだよ。つまり即身成仏ということだよ」
「なるほど、よくわかりました。よい勉強になりました。これからも何かにつけてご指導ください」
「いいえ、柔和質直な心で何の抵抗もなく聞いてもらえて、私のほうこそ感謝しますよ。どうもありがとうね」
私は来た時と異(ちが)って、身も心も軽くなり、爽やかな心で家へ急いだ。
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 『オーラの泉』では菩薩のように思える美輪さんにも僕たちと同じように恨みや嫉妬などで苦しんでいた時が過去にあったこと、そしてそれを救ってくれた先人たちがいたことをこの本で知った。“すなわち変化(へんげ)の人を遣わして、これがために衛護(えご)となさん”、この言葉が胸に残る。

 きのう引き受け氣功東京講習会があったんだけどそこでも藤谷康充先生が「憎いあの人は鬼の面をかぶって気付かせに来てくれたんですよ」と話された。そう、上の美輪さんの話と同じなんだね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: スピリチュアル
感想投稿日 : 2010年10月9日
読了日 : 2006年8月5日
本棚登録日 : 2010年10月9日

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