若き日の著者の輝かしき女性遍歴なのでしょうか、これは。少なくともモデルは実在しそうです。主人公がだらだらと付き合ってきた、ひと癖もふた癖もある女たち。熱烈な恋は見受けられず、どこか冷めて怠惰な関係を、気だるいトーンで描写した11本の短編集。なんとも厭世観の漂う作品です。
それでも男目線で女性を描写した作品に趣を感じるのは、私が本書に源氏物語を重ね合わせているからでしょう。男から見ると女の行動はこう見えるのか、という発見が毎回新鮮に感じられます。どの女君も魅力的に描かれている源氏物語とは対称的に、吉田氏の登場させる女たちは誰も彼も、だらしなく、流されやすく、自己評価が低く見える。百花繚乱、女性を描いているつもりでも、作品の印象は著者によって決まってくると思います。有名男性作家の現代版源氏物語シリーズ読んでみたいです。
以下は「どしゃぶりの女」から気になった文の抜粋。
もちろん最初の一週間ほどは「俺は店でまかない食ってくんだから、待たずにコンビニでもどこにでも、なんか買いに行きゃいいだろ?」と何かしら言葉をかけていたのだが、いつしかそんな彼女の待ち姿にもすっかり慣れてしまい、バイト帰りに近所の弁当屋で、今夜は何弁当を買って帰ってやろうかと考えている自分が妙に幸せで、ふと気が変わってハンバーグ弁当を二日続けて買って帰った夜などに「その中身、当てようか?今夜もハンバーグ弁当!」などとビニール袋を指差されたりすると、色気も何もあったもんじゃないが、なんというか運命の?そう、運命の出会いってやつか?これがぁ、なんて、嬉しそうに弁当のふたを開ける彼女の横顔を、にやにやしながら眺めたりした。
長々と続いてこれで一文。流れるような独白シーン。念仏のごとくブツブツと何度でも読み返してしまいます。今回本書を読んで、長くても滑らかな文章のコツは、どこで読点を句点に変えても意味は通じ、物語は進んでいる、という構成なのではないのかなと。自分で書いていて、つい長い文になってしまうときは、たいてい形容詞や副詞をだらだらとのばしていることが多いことに気がつきました。ちょっと勉強させてもらいました。
- 感想投稿日 : 2012年6月12日
- 読了日 : 2012年6月12日
- 本棚登録日 : 2012年6月12日
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