難解な本を読む技術 (光文社新書 406)

著者 :
  • 光文社 (2009年5月15日発売)
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フロイトの「無意識」、デリダの「脱構築」、ドゥルーズ「襞」、フーコーの「生権力」、ナンシーの「共同 - 体」、ジジェクの「否定の否定」... 聞くだけで頭の痛くなる、超弩級の思想書をいかにして読み解くか。現代思想評論家の高田明典氏が、難書に挑戦するにあたって必要な技術を紹介しています。タイトルだけ見るとやや敷居が高いものの、本書は優雅な知的探求のための読書に始終せず、すぐに現ナマが帰ってくるような「必要になったときに、必要な知識を習得する」実践的な読書にも通ずる読書術です。

長く語り継がれてきた名著は時代を超え、現代に通ずる力を持ってる。しかし「本読み」とは、単に先達の思想を学ぶという受動的かつ消極的な行為のことではない。テクストとして表現されたものを、現代に生きる人間が未来を創造するために再解釈し、再度その現代的意義を創造するという積極的な営みこそが「本読み」である。という高田氏の信条は、ビジネス書を読む私たちにそのまま当てはまる教訓のように思います。

「本は10冊同時に読め!」では、目次をチラ見して自分のアンテナに引っかかる項目があればその本は買い!と述べられていましたが、本書で紹介されているのはその本を買うか否かの判断ではなく、テーマに沿ってある程度まとまった冊数を購入する際に有効な作戦です。最も参考になったのは「さらに高度な本読み」の章で紹介されていた、本の関係性を植物に例える考え方です。

ある本は●他の知識や思想を土壌として発生したものであるという意味で「茎」であり、●この世界に大きく影響したという意味で「花」であり、●それに続く思想を育む土壌となったという意味で「根」であり、●その時代における要求を受け取り、それを養分に変化させたという意味では「葉」であると。単に入門編→初級編→中級編→上級編の順に読めというのではなく、各著の「根」「茎」「花」「葉」としての側面を知り、より大きな知識構造の中に位置づけて認識するという考え方に感動すら覚えました。

ひとつ心残りなのは、建築学科の学生だった頃に本書に出会っておきたかったということです。建築学の本は、構造解析や設備設計の参考書といった実務に関する本を選ばない限り、おしなべて極端に抽象的に書かれています。著名な建築家のインタビューや講演にしても同様で、かなり独特な言語を使いこなしているため、通訳者泣かせということで有名なのです。

大学で5年間学び3年間実務を経験した上で「独特な言語」と言っているようでは建築家のたまご失格なのは重々承知の上なのですが、●系統的な流れをふまえて選書をすべし、ということ、少なくとも、●一般的な文脈で使用される一般的な単語や概念も、著者の意図に沿ったかたちで「特殊な意味」を把握しなければならない、ということさえ意識していたら、ニガテな建築学の本にもっと惜しみなく時間を注いで咀嚼することもできたのになと思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ・読書術 発想法
感想投稿日 : 2012年1月3日
読了日 : 2012年1月2日
本棚登録日 : 2012年1月2日

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