さすらう者たち

  • 河出書房新社 (2010年3月10日発売)
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本棚登録 : 160
感想 : 22
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“ちゃんと彼らをみて”と本の向こうからイーユン・リーが語りかけてくる。“目をそむけないで“と。
だから僕は、痛みと哀しみに満ちた時代に生きる人々の物語を読む。
単純に共感できたり、入れ込める人物はいない。党という暴力装置に誇りと家族を奪われて擦り切れて行く老人、虐げられ世間に唾を吐きかける少女、英雄に憧れる世間知らずの少年、蔑まれ軽んじられている小児性愛傾向がある青年。
だが、繊細に描かれた彼らの心の震えを追っていくと、僕の心も強く揺さぶられる。いつしか遠い見知らぬ誰かではなくなる。寝ぼけた価値観が蹴飛ばされる。

中国全土を混乱に陥れた政治運動「文化大革命」の終結が宣言されてから2年。中国建国初の民主運動として、首都で民主の壁運動(北京の春)が起きる。政治の思惑で許された束の間の言論の自由は、たちまち弾圧されていく。
そんな時代背景を纏って作中で渾江市民がとった行動は、1989年天安門事件、2014年雨傘運動、2022年白紙運動と続く隣国の苦しみに続いている。
ニュースが伝えることの後ろに、一人ひとりが抱える葛藤や怯え、迷いがあることに思いを馳せる。
リーが語る通り、人々は歴史の中ではなく、それぞれの今を生きているのだから。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年4月2日
読了日 : 2023年4月2日
本棚登録日 : 2023年4月2日

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