つながり続ける こども食堂 (単行本)

著者 :
  • 中央公論新社 (2021年6月8日発売)
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感想 : 33

こども食堂の事例をいくつか紹介しながら、その社会的意義、価値、あり方を説いた一冊。誠実であり切実さがあって説得力がある。論理的でありながら熱量を感じさせるところに、書き手の力量を感じた。

「こども食堂」というと、その名の通りこども向けの食堂、特に貧困状態にあるこども向け、という印象が強い。この本では、それだけではないこども食堂の意義、特に地域コミュニティとしての価値を説いている。

近頃の新たに生まれるコミュニティは、どうしても何らかの階層やカテゴリーに人を区切ってしまう。趣味のグループ、読書会、哲学カフェ、自助グループもそうだ。なんらかの共通項を基にして人が集まる。その方が安心だからだろう。人が集まるというのは、そういうことだろうと思う。でももう少し枠がゆるい、多くの人を包摂できる、社会的生存の助けになる集まりが必要なのではないか。こども食堂だって明らかな枠や、明らかでない枠はあるだろう。しかし、こども食堂が「食」を鍵にしたのは大きい。食べない人はいない。そして「同じ釜の飯を食べる」ことはコミュニケーションの発生源になり得る。

この本にある埼玉県の例では、こども限定のこども食堂は2割で、誰でもウェルカムなこども食堂が8割と書いているが、近所を検索した限りでは、こども限定のものが多かった。この本でも触れている通りに、コロナ禍を経てこども食堂の有り方が変わったのかもしれないが、こども食堂ではなく、地域食堂、とでも言うべきものがもっと増えて欲しいと思う。現代社会における社会的孤立は、一部の人の問題ではない。孤立しているのは、こどもや高齢者だけではない。働いていない独身中高年、あるいは働いている独身中高年だって相当に孤立している。子供の世話に関わることは、独身中高年自身の生きる刺激にもなるだろう。「こども」と「食」は人を繋ぐ鍵になり得る。「こども」と「食」を仲立ちにして、人は他者と関わることができるのではないか。

だが、そういう間口の広い地域食堂に母親はこどもを行かせるだろうか。誰が来るかわからないのに。孤立した人には多様性がある。外国人、ホームレス、引きこもり、精神障害者、LGBT、フーゾク関係者、元受刑者、そういった多様性のある場所に、こどもを行かせるだろうか。でも可能性はある。間口が広いということは、孤立していない人が行ってもいいはずだからだ。孤立していない人も参加する。そこから何か良い循環が始まる気がする。

公的機関から援助を受けることの是非について触れているのも良かった。たまにネット上で「政府がやらないから民間がボランティアでやらざるを得ない事態になっている!」という政府批判を見かける。言いたいことはわかるけど違和感を感じる。お役所が介入するとコミュニティの自発性や主体性の萌芽を摘むことにならないだろうか。政府なんかアテにせずに、自分達で社会を創っていく意気込みは大事にしたい。もちろん貧困対策は必要だが、コミュニティを作るのも政府の仕事なのだろうか?それは違う気がする。公的の援助を受けてしまうと、活動の主体性が揺らぐ側面もある。サービスを受ける対象や地域が分断されてしまうかもしれない。

この本ではこども食堂のポジティブな側面を語っている。しかし、こども食堂は始まって日が浅い取り組みで、容易に模倣できるようなシステムは組み上がっていないから、課題は多いだろう。場所、資金、時間、人など、こども食堂を続けていくには様々なコストがかかる。精神的負荷もあるだろう。主催にかかる負荷は相当あるのではないか。システムが組み上がっていない、ということは主催の力量や人間的魅力に依存する部分が大きいということでもある。この本で紹介されている個々の事例を読んでいても、それは感じる。

主宰にかかる負担、という言葉から連想するのは自助グループのことだ。AAのようなアノニマス系12ステップ自助グループは、システムが組み上がっているから主催の力量に依存しない。だから長期間グループ活動を存続できる。しかしそうでない自助グループの主宰には、こども食堂の主宰と似たような負担がかかる。主宰は意気込んで活動を始めるが、多くのグループは2~4年くらいで活動を終える。主宰の負担もあるだろうし、飽きたりもするのだろう。似たようなことは、こども食堂でも起きると想像する。

でもそれでいいのだと思う。ある自助グループが活動を終えても、その参加メンバーが新たにグループを立ち上げるケースがある。様々な自助グループが泡のように生まれて消えていくが、総体としての自助グループは存続していく。こども食堂もそうなっていくのではないだろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年10月23日
読了日 : 2023年10月23日
本棚登録日 : 2023年10月16日

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