ポピュリズムとは何か

  • 岩波書店 (2017年4月19日発売)
3.88
  • (12)
  • (20)
  • (16)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 304
感想 : 28
5

著者はポピュリズムを民主主義の敵であると否定的な立場から論じている。なぜなら、ポピュリストは反エリート主義的であるとともに、反多元主義であるからである。換言すれば、反エリート主義であることはポピュリストであるための必要条件であるにすぎない。すなわち、ポピュリズムは民主主義が本来想定する多元的で多様な利害から成る社会を真っ向から否定するのである。
ポピュリストは一部の人民を真の人民と見なし、彼らはひとつの声で話すことが可能であり、政権を獲得したポピュリストに正確に命令委任を発することができるとしている。それゆえ、ポピュリストが国家を植民地化し、大衆恩顧主義や差別的法治主義を実践することは、そうした人民の道徳的な良心に支えられて公然と行われ、これを批判することは困難である。また、ポピュリストかをレファンダム(国民投票)を要求することもあるが、それは真の人民の意志だと既に決まっていることが追認されるのを意図しているにすぎない。
ポピュリズムが政治があまりにも人民から乖離している状況を是正するという主張も有力であるが、著者は、一部の人びとが実際に代表されていないことを明確にする可能性を指摘した上で、この主張に対しても否定的である。
かと言って、ポピュリストを政治から排除することはナンセンスである。なぜなら、そうするとポピュリストの反エリート主義的な主張を事実として正当化することになってしまうことになってしまうからである。ゆえに、政治アクターは彼らの主張を真摯に受け止め、彼らと対決していくことが肝要である。

比較的コンパクトな本ではあるが、今後ポピュリズムについて検討していく上では必読となるであろう。それだけ、定義しにくいポピュリズムというものを多様な知見も頼りにして捉えようと試みている。正直なところ、初学者である自分にとっては難解な箇所も多々あったが、結論にて本文で検討したことが簡潔にまとめられており有難い限りである。翻訳者の先生のあとがきも大いに参考になる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 政治学
感想投稿日 : 2022年1月19日
読了日 : 2022年1月19日
本棚登録日 : 2022年1月8日

みんなの感想をみる

ツイートする