”砂の本”、”汚辱の世界史”から成る短編集。だが”砂の本”自体が掌編の集まりであり、”汚辱の世界史”も史実の人物の紹介と掌編による作品なので、単に短編集と書くのは違うかもしれない。
”砂の本”は13の掌編とボルヘス自身による後書きを加えた構成である。通い慣れた公園で過去の自分と出会ってしまう”他者”。無いはずの物を在ると信じ込み、積み上げてきたものを放り出しても追ってしまう”円盤”。読むたびにページの組み合わせが変わっていく本が出てくる”砂の本”。それら奇妙な設定に惹き付けられるが、その物語から浮かび上がってくるのは人の弱さや醜さである。人の業、人間臭さを感じてしまう。
次に”汚辱の世界史”では、上述のように史実と掌編から構成されている。その掌編は架空の人物と出来事を史実のように記述する。すると史実の文章と掌編の文章の区別が曖昧になっていく。史実と架空が互いに浸食を始め、史実がまるで物語に、物語がまるで本当にあった出来事のように錯覚を起すのだ。現実が揺さぶられていく感覚が読書を通じて伝わってくる。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
本
- 感想投稿日 : 2012年5月20日
- 読了日 : 2012年5月20日
- 本棚登録日 : 2012年5月20日
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