死神の浮力

著者 :
  • 文藝春秋 (2013年7月30日発売)
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いやぁ~、もう前作から8年が経つのか~!
しかし、まさかまた千葉と再会できるなんて
本好き続けてて良かったぁぁ~(笑)

1年前10才のひとり娘を殺され、今も悲しみに暮れる小説家の山野辺 遼と妻の美樹。
娘を殺害した犯人は実はサイコパスで
両親の遺した資産で優雅に暮らしていた、当時27才の本城 崇。
死神の千葉は山野辺 遼の幼馴染で自分も本城に怨みがあると偽り、 絶望し自宅に閉じこもった夫妻に接触。
山野辺夫妻は証拠不十分のため裁判で無罪となった本城を赦すまいと
自らの手で復讐を果たす準備を整えていたのだ。
仇討ちの旅へ同行することとなった千葉の目的は?
果たして仇討ちは果たすことができるのか?

不仲だった亡き父と山野辺 遼との回想を挟みながら、
7日間の復讐の旅を続ける三人を描いた死神シリーズの第二弾。
今回は前作『死神の精度』のような連作短編ではなく、
じっくりと描かれた書き下ろし長編。

死神の仕事は担当した人間を一週間調査し、その死を決行してもよいと判断した「可」なのか、
決行するべきではないと判断した「否」なのかの判定を下すことです。
適当に「可」の判断をする死神にしては珍しく、
千葉は仕事をきっちりこなすことに誇りを持っています。
(口が裂けても千葉本人は認めないけど笑)
だからこそキチンと調査対象に接触し、
いつもトラブルに見舞われます。

仕事をするとなぜか必ず雨が降り(笑)、
渋滞が何より嫌いでミュージックが何より大好きという千葉のキャラがとにかく秀逸です!

年齢や姿を変え、千年もの長い間死神をしている千葉だけに、
今作では江戸時代の「参勤交代」に同行した時の裏話が聞けるし、
人間から見るとどこかチグハグな物言いがおかしみを生んで
噛み合わない会話にニヤけてしま
います。
そして今作のクライマックスでは
、なんと千葉がママチャリに乗っての大冒険活劇が繰り広げられるのですから(笑)、
これだけでも死神ファンは必見(必読)です!
(無愛想で人間味のない千葉と
一生懸命に漕がなきゃ進まないママチャリというある意味人間らしい乗り物を組み合わせた伊坂さんの発想が素晴らしい!)

ロベール・ブレッソンのフランス映画『スリ』や
ヒッチコックの名作『裏窓』が 登場人物たちの会話で引き合いに出されたり、
(こういう遊び心やいわゆるサービスがあるから伊坂作品は楽しい)

他にも音楽好きの伊坂さんだけに
フォーシーズンズの『シェリー』と
伝説のギタリスト、ジミ・ヘンドリックスの『I Don't Live Today』がテーマ曲となって何度も流れ、
ジャズ界の巨人ソニー・ロリンズに関するウンチクや考察も音楽好きには嬉しい限り♪

この作品のテーマは人間誰しもが持つ「死への不安」と
大切な人を失った時、その死をどう受け止めればいいのかということ。

「寛容は自らを守るために、不寛容に対して不寛容になるべきか?」
「陳腐なハッピーエンドが現実になったら、それは陳腐ではなくスゴいことだ」
など随所に印象的な言葉を散りばめ
仇討ちの是非や命の意味を読者に問い、
娘を亡くした夫婦の葛藤や心の揺れを
静かに丁寧に描いていきます。

重いテーマであるがゆえどうしても暗くなりがちな物語の閉塞した空気を、
人の死に対してドライな感覚を持ち、死神だからこその千葉のちぐはぐな会話がユーモアで中和し、
風穴を開ける効果になってるし、

どんな作品にも希望を内包した伊坂作品だからこその
「重いのに軽やか」で、「哀しいのに晴れやか」な不思議な読後感を
この作品も与えてくれます。
(まさにそれこそが、そういう生き方こそが伊坂さんが今まで描いてきたテーマやポリシーであり、今作のタイトルに繋がる意味なんじゃないだろうか)

あと、千葉の口からヤクザの藤田の名前が出たシーンは
前作を読んだ読者には嬉しいプレゼントでしょう(笑)
(そしてのっぴきならないがこれほど役に立つとは!)

それにしても本城のような人間は昭和の時代まではまだ作り話に思えたけど、
最近は笑えないですよね。

日本でもサイコパスまではいかなくとも
良心を持たない人間(いわゆるモンスター)が増えてる昨今、
常識の通じない「絶対的な悪」にどう対抗すればいいのかは本当に考えさせられます。

そして大切な人との別れについても。

いつか別れが待ってるからこそ、
それがいつかは分からないからこそ、
人と人との出会いは一期一会なのかな。
だからこそまだ間に合ううちに大好きな人や大切な人には、
愛してるってことを、
あなたが必要だということを相手に伝えなきゃいけない。

後悔しない人生を、好きな人と。

泣いても笑っても一回ポッキリの
人生やもんね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2015年4月24日
読了日 : 2015年4月24日
本棚登録日 : 2015年4月24日

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