ITやデジタルの論客とされる人たちの語り口がどうにも気になる。もちろん、全員がそうだとは言わないけれども、挑発的でとんがっていたり、上から目線だったり、ご自身の知識をひけらかしたりする人が少なくない。もっともなことを言っていても、そんな言い方されちゃうとなんだか素直に聞けないなあなどと思ったりもする。
そこで、ドミニク・チェン。「気鋭の情報学者がデジタル表現のこれからを語る」という帯の惹句だけ見るとこの手の論客と見えるが、実は正反対。衝撃を受けるほど正反対。デジタルに対してこんなにあたたかい語り口とアプローチがあったのかと目を開かされる。
人と人とのコミュニケーションとは、副題の通り「わかりあえなさをつなぐため」のもので、そのわかりあえなさとは埋めるべき隙間ではなく、新しい意味が生まれる余白である、と。コミュニケーション、そしてそれに使われる言葉に対する研ぎ澄まされた感性と繊細で緻密な観察がまずあって、デジタルはそのための手法のひとつに過ぎない。この考えがベースにあるから、本書で書かれる言葉は穏やかであたたかく、美しいとさえ言える。
言葉に対する著者のこの感性を思ったとき、その生い立ちに触れずにはいられない。母方の日本の家族、父方の台湾の家族はそれぞれ第二次大戦で各地を移り住み、特に父親は5か国語を操って日本留学中にフランスに帰化するという奇異な人生を送ったという。そして、著者本人は東京でフランス国籍者として生まれ、在日フランス人の学校に通った日本語・英語・仏語のトリリンガル。こんな人が考えるデジタルは、人に優しいものになるに違いない。
- 感想投稿日 : 2020年4月11日
- 読了日 : 2020年2月17日
- 本棚登録日 : 2020年2月8日
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