中国文学者でもあった武田泰淳の作品の中から、「もの喰う女」「ひかりごけ」「秋風秋雨人を愁殺す」等を収める。
武田泰淳はアンソロジーに収録されていた「ひかりごけ」を読んでからひたすらその印象が強く、といういうよりその読書の衝撃が強すぎて、『作家』としては一体どういう人なのかさっぱりわからないでいた。
泰淳が新聞に連載していたという『十三妹』も以前読んでみたのだけど、割とさっぱりと娯楽に徹した大衆モノだったせいもあって、「あの『ひかりごけ』を書いた人が・・・?」とますます混乱してしまった。
そこで見つけたのが本書。コンパクトなちくまの全集だから、武田泰淳という『作家』を知るチャンスかも、と思い手に取る。
で、読み終えた感想としては・・・やはり泰淳は、「ひかりごけ」の作家だった、というのが私の印象となった。
生きていくことの泥臭さ、そしてどうしようもないほどのつたなさ。ただ生きていく、それだけのことが、どうしてこんなにも遠く長い道のりなのか・・・そして、どうしてこんなに長い道のりを、一歩一歩、踏みしめて生きていかなくてはいけないのか・・・。
それは生への絶望だとか憎しみだとかでは、決してない。ただ、それだけのこと。それが、今目の前にあって、そしてこれからも続いていくこと。
けれどそれ自体が、時にあまりにも残酷で、あまりにも無惨で、あまりにも哀切に満ちているのである。
その自覚こそが、武田泰淳の泥臭さであり、また現実に対する反骨なのだと私は思う。
正直この全集の大部分のページを占めている「秋風秋雨人を愁殺す」は作品としては駄作だと思うけれど、この全集を読めてよかったです。
- 感想投稿日 : 2011年9月4日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2011年9月4日
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