言語小説集 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2014年11月28日発売)
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本棚登録 : 198
感想 : 21
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ワープロの上で暴れ始める記号たち、ある日突然舌がもつれて落魄する元青年駅員、古書店で繰り広げられる小説と映画の仁義なき戦い…。
本書は言葉にまつわる、そんな奇想天外な物語を集めた短編集。
実は恥ずかしい話、井上ひさしの小説を読んだのは今回が初めてで、代表作のひとつで読売文学賞を受賞した「吉里吉里人」も、直木賞受賞作の「手鎖心中」も未読。
いつか読みたいと思いつつ、まず取っつきやすい短編集から手に取った次第。
全部で11編収められており、どの作品も巧みな構成と描写、それにどこか黒いものを感じさせるユーモアで、小説を読む醍醐味を存分に味わわせてくれます。
私は「極刑」が最も気に入りました。
劇団に所属する男二人(主人公の「私」と座付作者で演出家の北条)と女一人(加代)の三角関係を描いた作品です。
ここからはちょっとネタバレなので、これから読もうという方はご注意いただきたいですが、タイトルの「極刑」は北条が脚本を書いた演劇作品のこと。
北条はヒロインに加代を抜擢しますが、加代は北条を裏切った女。
そこで北条は脚本で、加代のセリフをまったく日本語の意味をなさないセリフばかりにして、ついに加代を体調不良、降板に追い込んで復讐を果たします。
その意図が最後に明らかになって戦慄しました。
いや、それも驚きましたが、それより何より言語について深く考えさせられました。
私たちは、意味をなさない言葉の連なりに多大なストレスを覚えるようです。
「どの台詞も意味をなしていないから、彼女は頭の中に意味の骨組をつくることができなかった。意味の骨組がないかぎり台詞をからだに滲み込ませることは不可能である。加代は腸をこわした。」
いや、抜き差しならない作品ですよ、これは。
あと、読んでいて何度か既視感を覚えました。
私が大ファンの筒井康隆さんとユーモアの感覚が似ているのですね。
解説はその筒井さん。
なんと贅沢な本でしょう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2015年2月8日
読了日 : 2015年2月8日
本棚登録日 : 2015年2月8日

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