小学校の修学旅行は旭川へ行きました。お小遣いは5千円でした。そのお小遣いで唯一買ったのが、加藤一二三さんの詰将棋の本。当時は将棋に夢中でした。
一地方の将棋少年だった当時の筆者からすれば、加藤さんは、まさに雲の上の人。雲の上どころか、神様のように崇め奉っていた記憶があります(事実、加藤さんは「神武以来の天才」と謳われました)。
その神様のような加藤さんが後年、ゲームのキャラクターみたいな愛称を付けられ、若手芸人にいじくり倒されるようになるとは一体、誰が想像できたでしょう。
本書は、今やお茶の間(死語か)で見ない日はないというほど、テレビに引っ張りだこの加藤さんの自伝。史上初の中学生棋士としてデビューするや順調に昇級し、弱冠20歳で名人戦に挑戦、第7期十段戦で十段獲得、その後奪還されるも、再び奪取し十段を2期保持、さらには初挑戦から実に22年の歳月を経て名人位を獲得するという、起伏に富んだ将棋人生が語られます。
白眉はやはり名局の数々。当事者によって語られるだけに臨場感と迫力があります。特に1973年の第32期名人戦七番勝負で、中原誠名人と繰り広げた十番勝負の激闘には圧倒されました。棋士たちが盤上で繰り広げる真剣勝負は「芸術」だというのも頷けます。
「升田九段は一言でいうと学究派、大山名人は意地や気合で指している」「(谷川さんの)あの老練さは生まれつき備わったものではないかとさえ思う」「(羽生さんは)もともと性格的に覇者的な資質を濃厚に持っているのだろう」など、独特のライバル評も読みどころでしょう。
本書を読むまで知りませんでしたが、加藤さんが敬虔なクリスチャンであることは、加藤さんの将棋人生に大きな影響を与えているようです。「どんな時でも私のことは神におまかせしている。何か必要とあらば、神は私にメッセージをくださると信じている」との言葉から、厚い信仰心が伝わってきます。加藤さんにとって信仰と将棋は不可分なのです。
さて、公式戦勝利の史上最年少記録(相手は加藤さん)など数々の記録を塗り替える快進撃で藤井聡太六段が注目されていますが、実は藤井六段には加藤さんを超えられない記録があります。18歳でA級八段というとてつもない記録です。
加藤さんがいかにすごい人なのか、若い人たちにも分かってもらえるのではないでしょうか。ケータイ会社の会長さんに扮して呵々大笑している好々爺なんかでは決してないのです。
- 感想投稿日 : 2018年3月24日
- 読了日 : 2018年3月24日
- 本棚登録日 : 2018年3月24日
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