記号論への招待 (岩波新書 黄版 258)

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  • 岩波書店 (1984年3月21日発売)
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記号とは何かに始まり、記号の中でも最も我々にとってなじみ深い「言語」を例の大半として体系的な解説が為されています。
記号による理想的なコミュニケーションにおいてはコードの規制が厳密な状態であり、記号表現と記号内容が対称的な状態となります。つまり、一方からのエンコードに対し、反対側からデコードすることで必ず元の記号を取り出すことができる状態です。
しかし人間の扱う言語はそのような意味で完璧な記号体系ではなく、記号表現と記号内容は恣意的な関係にあることが前提となります。このような場合においては言語のもつコードに人間という「主体」が関与することでコードの規制が緩められ、そこから様々なダイナミクスが生じることが詳細な例とともに解説されています。

中でも、膨大な記号内容を効率的に取り扱うという面において、受信者の知覚限界による制約をうまく躱すことを可能にしている二重分節のくだりが特に面白いと感じました。

終章では個人レベルのコミュニケーションから射程を拡大し、文化を記号的対象として当てはめ論が展開されていますが、これは生命現象などにも適用できそうです。
たとえば、ATGCの塩基を最小単位としての「音」、コドンを「語」とし、コドンとアミノ酸との対応関係を「コード」と解釈すれば、
たった4種類しかない塩基を組み合わせることで20種類のアミノ酸を表現し、さらにアミノ酸重合の組み合わせにより無数のタンパク質(言語における、文)が表現できていることは、言語における二重分節のような現象であると類推できそうです。

また記号におけるコード依存、コンテクスト依存の関係も興味深いと思いました。予測変換や翻訳ツールはまだまだ精度が低く、今も四苦八苦しながら文字を変換して打っていますが、翻訳・変換ツールの課題点の本質は言語の持つコンテクスト依存寄りの性質にあるような気がします。

入門書であるため、基礎的な概念の解説がメインでなんとなく味気ない感じでしたが、これを他分野へと応用した本など有れば今後読んでいきたいと思いました。

読書状況:積読 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2022年1月19日
本棚登録日 : 2022年1月18日

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