文系AI人材になる: 統計・プログラム知識は不要

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  • 東洋経済新報社 (2019年12月20日発売)
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【感想】
本書は数式や記号を一切使用してない、まさにコテコテの文系に向けられた解説本である。AIの機能やAI用語といった基礎知識の解説が充実しており、コードを知らない、プログラミングや数学はお手上げ、といった文系人材であっても、本書を読めばAIの重要性を一から学ぶことができるだろう。

2021年現在、Bubble、Shopifyなどの「ノーコード開発サービス」が盛り上がりを見せはじめている。難しいソースコード画面とにらめっこしなくても、型を組み合わせていけばアプリを作ることができてしまう。ここまで来るとプログラムというよりもパズルのようだ。

しかし、ノーコードでは当然「用意された金型しか使えない」ということが起こる。簡単がゆえに拡張性は低く、複雑なサービスを作るには自前でプログラムを組む必要が生じる。

しかし、そうした「簡単なサービスを作る」ときこそ、AI人材の役割が重要になってくるのだ。

本書が示したとおり、AI人材がAIを活用するうえでは、「AIで何をしたいか」「誰のためのAIか」といった5W1Hを意識する必要がある。実装項目よりも目的を考えるのが先決だ。そのあとにやりたいこととできることをすり合わせ、必要な機能とそうでない機能を取捨選択していく。
文系AI人材というのは、言い換えれば「目的に対してAIを最適化するエキスパート」と言えるだろう。不必要にAIを拡張させるのではなく、必要な要素に、ピンポイントで届くAIを考案する。重厚長大なサービスをひとつぶち上げるのではなく、個々のサービスを軽度なAIが補完するように設計していく。

シンプルなAIをどこへでも素早く。これが「AIがエクセルのように当たり前になる世界」のテーマであり、その役割を担うのは文系人材だ。


【本書のまとめ】
1 AIと人間の仕事
人間とAIが共同でする仕事は、次の5つに分けられる。
①人だけで仕事をする
②人の仕事をAIが補助する
③人の仕事(不得意なこと、できないこと)をAIが拡張する
④AIの仕事(得意なこと)を人が補助する
⑤AIだけで仕事をする=人の仕事をAIが完全に代行する

こうした「人間とAIの共働き」をうまくコントロールするのが「AI職」の役割。


2 AIは「作る」から「使う」へ
AIを「作る」側の教育環境が充実してきた一方で、AIを「使う」側の教育環境や、人材キャリアをフォローアップする環境はまだまだ整っていない。
ただし、熟練レベルのAIエンジニアやデータサイエンティストがいなくても、AIはカジュアルに作れるものである。

スクラッチ(ゼロから)でAIを作る代わりに、次の3つの選択肢がある。
①コードベースのAI構築環境で作る
②GUIベースのAI構築環境で作る
③構築済みAIサービスを使う

AIは「作る」側から「使う」側にシフトし始めた。AIを作るのか、作るならどこまでカスタマイズするのか、あるいは、自らは作らずに、すでに作られたAIを使うのかを判断する能力が非常に重要となってきている。
文系AI職は、理系AI人材がやる仕事(システムの構築)以外の仕事を全てやるようになる。


3 AIの分類
●学習の種類による分類
(1)教師あり学習→答えアリ学習
・分類:いくつかの答え(選択肢)に対して、どれに適応するかどうか当てる。画像分類、YES/NO判断。
・回帰:数値を当てに行く。人間の年齢や、車の走行距離、データをもとに店の売り上げを当てる。

(2)教師なし学習→答え無し学習
・クラスタリング:AIの解釈によって集合を作る。

(3)強化学習
→結果としてのあるべき状態を目指して、適切な選択を何度も繰り返し、報酬と罰を与えながら学習することで最終的にもっともよい状態を作ろうとする。

●AIの機能による分類
①識別系AI「見て認識する」→画像認識AI、音声認識AI
②予測系AI「考えて予測する」→需要予測AI、異常検出AI
③会話系AI「会話する」→チャットAI、翻訳AI
④実行系AI「身体を動かす」→自動運転AI、マシン制御AI

●AIの役割による分類
①代行型:人間ができることをAIが代わりに行う
②拡張型:人間ができないことをAIによってできるようにする

前述の機能分類と合わせて、8パターンのAIができあがる。


4 AIを使いこなすために
AIをよく知ることによって、AIはなんでもできると過大評価をすることが少なくなる。
一方で、AIの基本知識や作り方、事例の情報を十分に取り込むことによって、知っている範囲内だけで思考し、AI活用のアイデアを小振りなものに留めてしまうことは避けなければならない。

AIを企画するにあたって、5W1Hを意識する。それは、
・WHEN:いつまでにどう用意する?
→いつまでに企画、データ作成、学習を行うか?
AIの要件を定義するとともにサービス開始までの時間とリソースを勘案し、構築済みのAIサービスを使うか、自前で用意するかを考える。

・WHO:誰のためのAI?
→顧客?取引先?従業員?
具体的なターゲット像を思い描く。AIを入れることを目的としない

・HOW:どう分業する?
補助か拡張か代行か?

・WHY:なぜAIが必要?
マイナスを減らす(不満、不便、コスト、作業時間を減らす)
プラスを増やす(満足、便利、売り上げ、付加価値を増やす)

・WHAT:どんなAI?
AIができることと、AIによって解決されることは何かを考える

・WHICH:どのタイプのAI?
識別系AI・予測系AI・会話系AI・実行系AI
×
代行型・拡張型


さまざまな可能性をもつAIは、私たちが属する社会を大きく変えていく。具体的には、消費者、会社、働き手に対して大きな変化を起こしていく。
文系AIの役割は、AIのことを理解し、的確に「AIを使う」こと。AIを使う側に立ち、これからのAI社会を引っ張っていこう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年4月17日
読了日 : 2021年4月6日
本棚登録日 : 2021年4月6日

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