Frindle

著者 :
  • Atheneum Books for Young Readers (1998年2月1日発売)
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本棚登録 : 120
感想 : 33
3

独創的な少年が、物の名前を使って遊び始めたところから始まる、大騒動の話。
読者を飽きさせない、予想を超えた展開で面白かった。
少年の「宿敵」である国語の女教師のキャラクターがとてもいい。
ラストもウイットと温かさに満ちていて、読後感も良かった。
ただ。
学校のルールを越える自由な子供は、私が親しんでいた頃までの児童文学では、学校や教師と対立するヒーローだというのが王道だった。
今回もそのレールを行くのだろうと思っていたけれど、中盤からそうではないことに気づく。
主人公を型にはめようとしているように思われた女教師は、実は彼の一番の理解者であり、支援者なのである。
それがわかった時、新鮮で面白く思う反面、私は寂しさも覚えた。
子供の頃、「王道」の児童文学を読みながら、学校や教師に立ち向かう自由な子供達を羨みつつ、私はそちら側には行けないことをわかっていた。
自由にしか生きられない子供もいれば、優等生にしかなれない子供もおり、私は明らかに後者だった。
長靴下のピッピにはなれない、私は彼女に憧れながらも学校に戻るトミーとアンニカ兄妹の方。
後者であることは楽で便利だったけれど、そのせいで何か素晴らしい物を手に入れられなかったのではないか、という悲しみは子供の頃から胸のどこかにあったし、今でもある。
しかしこの主人公は、前者でありながら後者の味方である教師までも魅了するのだ。
無論、「王道」の児童文学でも前者を支持する教師達はいる。
灰谷健次郎の「兎の眼」などは顕著である。
しかし、その教師達もまた学校や大勢の「普通の」教師と対立するアウトローだった。
だがこの「Frindle」の女教師は、厳格で抑圧的なところのある、まさにピッピ達が対立して来たような教師なのだ。
これは、私が読んで来た児童文学よりもこの作品が新しいことは大いに関係あるだろう。
個性が何より尊ばれる時代。
聞き分けが良くて成績が良いことよりも、独創性があって他者を圧倒することの方がずっと価値があると言われる時代。

作品の中で、女教師が主人公に与える慈愛は本当に美しく、胸を打たれた。
けれど、身を預けて来た教師や学校もそちらに行ってしまうのなら、残された私達、優等生にしかなれない子供達はどうすれば良いのだろうと、わずかに途方に暮れることも否定出来ないのである。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2013年12月5日
読了日 : 2013年12月5日
本棚登録日 : 2013年10月11日

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