雨に消えた向日葵

著者 :
  • 幻冬舎 (2019年9月19日発売)
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本棚登録 : 403
感想 : 44
4

女子児童が失踪した事件…。
一般的なミステリー小説と違って、3年くらい捜査して、解決するまでの出来事が淡々と書かれている。
捜査が空振りに終わることも多くて、そこがリアルだなと思った。

登場人物が多く、警察が目を付ける人物は全員怪しいんだけど、犯人はやはり特に怪しい人物だった。
年賀はがきが解決の鍵だったけど、ランドセルから出た指紋は、犯人のものではなかったのだろうか…?ランドセルから出た指紋が犯人のものであれば、もっと早くにたどり着けていたと思うのだが。
それとも、アリバイありと一旦認定されたら、それ以降は事件関係者として扱われないのだろうか…?

登場する女性刑事が「失踪事件は一番難しい」ということを言ってた。
確かに、そうかもしれない…。
事故か、家出か、と迷って初動が遅れる。
公開捜査まで時間もかかる。
身代金目的ではなく、監禁目的、猥褻目的ならなおのことだ。
現実に、我が子を何十年も探し続けている家族が存在している。

被害女児の姉が詐欺に遭ったときは、きっと、この子はもう立ち直れないのではないか、と思ってしまった。
だって、それ以前から、中傷の電話とか、学校での扱いとか、中高生の少女が引き受けるにはつらすぎたから。
でも違った。
捜査本部が解散して警察が捜査を打ち切っても、父親が犯人だとネットで中傷されても、姉は両親と仲間と共に妹を探し続けた。
冷静に強い気持ちを持ち続けるのはとても難しいことなんだけど、この家族の強さに、私は胸打たれた。
結果的に解決したのは警察なんだけど、家族の執念がなければ警察も動かなかっただろうし。

ものすごくひどくて、つらい事件なんだけど、読者である私も、なんとしてでも葵が生きて家族に会ってほしい!と思う気持ちで読んでた。
だから、最後はほっとした。
これから先、長く続く葵の人生を考えれば、そんなめでたしめでたし!って話でもないのだろうけど、奈良刑事の妹が立ち直ろうとしてる姿が葵にも重なって、なんだか勇気をもらった。

ここからはちょっと愚痴です。
最後まで読んだ読者だから言います。
帯の「みつけなきゃ、家族が死ぬ」ってあおり、なんか嫌な気分になりました。
この本の主題は、そういうことじゃないでしょう。
自分勝手な犯罪者、面白おかしく煽ったりする周囲やマスコミ。そういうことも確かに書いてある。
でも、この本は、マスコミや周囲等に家族が疲弊して死にそうになる不幸を描いた話ではありません。
何度も心が死にかけただろうし、父は娘を探すために仕事辞めたり、美しい母がひどく老け込んだり、姉が妹を助けたいあまり詐欺被害に遭ったりもするけど、逞しくしぶとく、娘が帰ってくることを信じて行動し続ける家族の話です。
その家族の姿に、警察も地元住民も動かされる話です。
家族の絆という意味でも、死ぬ=失われてはいない。
この、「人の不幸を面白がる」ような、下世話な興味を煽るような帯は、良い本だと思うからこそ、残念に感じました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ミステリー
感想投稿日 : 2020年10月26日
読了日 : 2020年10月26日
本棚登録日 : 2020年10月18日

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