分水嶺 ドキュメント コロナ対策専門家会議

著者 :
  • 岩波書店 (2021年4月8日発売)
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本棚登録 : 418
感想 : 51
5

2021年の今日もメディアで発言をされている尾身氏を拝見しているので、私は本書を読むまでは、専門家会議が一旦解散して別の形やメンバーに変わっていることは全くわかっていなかった。
本書は2020年7月3日に専門家会議が解散するまでの話である。

本書著者があとがきに「本書ではできる限り、私の存在や考えを文中に出すことなく、それぞれの取材相手の方の葛藤や思考を記録するように努めた」(214ページ)と書かれており、それが成功しているし、そのお陰で読みやすかったと思う。

まず読み始める前に本書をブクログに登録した際には、自分の本棚のカテゴリ内の、小説ではない、ノンフィクションやエッセイなどを入れておく『その他』に入れた。
しかし読み進めていくうちに、これは『公権力の罪』のカテゴリに入れることにした。
(専門家会議のことを公権力と捉えたのではない)

なぜなら、2014年に読んだ門田隆将著「死の淵を見た男」は『東日本大震災』というカテゴリを作ってあるのでそこに入れてあるが、その時の自分の感想と同じであるし、『公権力の罪』のカテゴリに入れてある他の何冊かと本書とには共通点があるからだ。

「ああ、また政府と省庁か…」「(監督省庁は違えど)ああ、また文言の削除か…」「思っていた通り、これも政府の危機管理能力の欠如だな」という印象を受けたのだ。
もっとも、私は尾身氏や専門家会議に対して、本書に書かれているような世間からのマイナスなイメージは元々持ったことがなく、本書をまだ読んでいない時期にも私の中での不信感は官邸や省庁や自治体に対してだった。
(たぶん今までにその手の書籍を数冊読んでいたからだと思う)
専門家会議が政策を決定しているという誤解は私は最初からしていなかった。

だから本書を読んで、尾身氏や専門家会議の方達への印象がマイナスからプラスへ変わったのではなく、ゼロ(言い換えれば、正直、特段意識していなかった)からかなりのプラスへ変わった感じだ。

それに引き換え、官邸や、国民ではなく官邸向きの仕事しかしていない印象の省庁は、ひどいひどいとは思っていたが、ここまでひどかったことに呆れるしかない。

マスク配布や一斉休校など、全く専門家会議に知らせることなく、意見をきくでもなく、いきなりのことで、メディアを通して突然その事実を知った専門家会議の先生が思わず椅子から転げ落ちそうになるほど驚くという、そこまで酷いとは。

本書は、メモしておきたい箇所が非常に多く、スマホでちまちまと抜き書きを沢山していたのだが、それは間違いなく過去最高の長さになってしまった。
ただ、単に自分への覚え書きのつもりでもここに載せてしまうと、私の雑な抜き取り方のせいで本書の内容との齟齬をきたしてしまうかもしれないし、かなりの内容の暴露になってしまい著作権侵害になってもいけないので、非公開メモの方に記録しておく。
(そんなに良かったのなら買えばいいのだが)

それくらい、「読んで良かった」「(主に、やっぱりな、な闇を)知れて良かった」と思える書籍だった。

しかし書き方として、少しだけ残念に思った箇所もある。
①専門家会議等の関係者一覧以外に、本文にだけ登場する重要な役割を担った先生方の一覧も欲しかった。
大抵どの方も肩書きというか所属名というか、それが長〜いし、途中でこの方はどういう方だったっけ?と思っても一覧が無いので、本文中を遡って探すのに困ったから。

②巻末の関連事項カレンダーに、全部は無理なのはわかるがもう少し本文の中に出てくる重要事項を落とし込んで欲しかった。

③「方丈記」や「聖書」などからの引用文と、本書では肝である専門家会議の提言とが、同じかっこ〈 〉で括られていたことだ。
後者は非常に大事な部分であるのにわかりにくかった。
太字なり【 】なり、とにかくもっと際立たせて欲しかった。

最後に、本書を読んで私はほぼ確信し、諦めた。
今後、(ピンポイントでわかるはずもないが)大体の時期と場所を割り出せる研究を日々している各種の専門家が、例えば「巨大隕石がいつ頃この辺に落ちてきそうだ」「近いうちにこの地域で大規模な地震が発生する」と政府に提言したとしても絶対に政府も省庁も動かないだろうな、隠すだろうな、自分達だけそっと避難するだろうなということを。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 公権力の罪
感想投稿日 : 2021年7月30日
読了日 : 2021年7月29日
本棚登録日 : 2021年7月29日

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