柳美里の戯曲を読んでいると、音楽が聴こえてくる。台詞以外の気配が濃密なのだ。表題作「魚の祭」は、弟の死をきっかけに集まった離散家族の物語。不在の弟が残したものを一つずつ繋げていくことで、家族に対する歪んだ思いが露にあってくる辺りが見事だ。家族であるのに、ギクシャクする会話。しかし、家族というものが愛情や安心の普遍的象徴であるという思いがこちらにあるから、ギクシャクしていると感じているだけなのであって、この劇の人物たちは、これが精一杯なのだ。精一杯のギクシャクが、この戯曲に命を与えているように感じた。もう一編、「静物画」の方も、ある人にしか見えていない何かの気配が始終付きまとう。最後は、気配のみで場面が終わってしまう。舞台上にこの空気感を出すのは、演出家にとってはかなりの難問だろう。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
戯曲
- 感想投稿日 : 2011年12月12日
- 読了日 : 2011年12月12日
- 本棚登録日 : 2011年12月7日
みんなの感想をみる