サンリオSF文庫総解説

制作 : 大森望  牧眞司 
  • 本の雑誌社 (2014年9月18日発売)
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感想 : 26
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サンリオSF文庫とはかつて存在したSF小説のレーベル。1978年から1987年にかけて計197冊の翻訳を世に出したが、廃刊から約27年の月日が流れた今こうして総解説が発売されることになった。何故今?という気持ちが大半の人の心にあると思うが経緯はまえがきに書かれている。大森望(ああ、さっそくSF恒例の同窓会感……)が以前から雑談やTwitterなどでやりたいとコメントしていたところ、本の雑誌社の発行人である浜本茂がそれを拾い上げる形で製作が決まったらしい(p10)。タイトル通り全作品の解説が1ページ(たまに2ページ)ずつあり、関係者の対談やコラムが加えられている。

眼鏡をかけた女の子を中心に置く表紙は個人的にかなり抵抗感があるが、実はこの表紙はリバーシブルになっており裏返しにすると文字のみで黄土色の地味な表紙になる。出版側の「こういう表紙にしないと売れないんだよぉ~。イヤなのはよく分かるからこういう形にしてみたんだ!これで電車の中でも読めるだろ?」という気持ちがなんとなく伝わるスタイルである。

あとがきで牧眞司も書いている通り「ニュートラルな読書ガイドなどではなく、偏愛が満ちあふれている(p241)」。この姿勢は正解だろう。サンリオSF文庫は色々な意味で尖っているレーベルであるし、否定的な内容を書いたってもはや新刊の売上への影響なんてものはまったくないのだから。「ああ、あの作品の翻訳が世に出なかったのは資金や権利の様なビジネス上の問題ではなくて、単に人事的な問題だったのね……」みたいな、当時の時代を感じる裏話なども収録されている。例えば、個人的な感慨だがJohn BrunnerのStand on Zanzibarが翻訳されていないのは、山形浩生が翻訳を途中でやめたから(p25)とか……。大森望「SFマニアの翻訳者は使いにくい?」山野浩一「遅いし上手くないし(笑)」(p14)みたいな身も蓋もない会話もある。

すでに何もかも終了したものに対して、金になるわけでもないから各人の思い入れだけで製作した、余り例のない出版。詳細で整理されたデータと、当時関わっていた人々のこだわりが凝縮された貴重な一冊である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2014年9月21日
読了日 : 2014年9月20日
本棚登録日 : 2014年9月21日

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