【ある朝、気がかりな夢から目をさますと、自分が一匹の巨大な虫に変わっているのを発見する男グレーゴル・ザムザ。なぜ、こんな異常な事態になってしまったのか……。】
〝虫〟に、何も大仰な〝変異体〟を当てる必要はない。「大概からズレている」それだけで充分である。ただグレーゴルの場合は「巨大」だったようだから、其の程度は甚だしかったのだろう。或る朝から一転、「家族から視ても擁護不能な息子」になったというわけだ。
勿論、字面そのままに受け取って読み進めても、それはそれで空想力との時間として愉しめる。「当人の悲劇は他人の喜劇である」ことは、大昔から云われてきた通りだ。悲劇を著して喜劇へと昇華させる——著者自身の苦しい時間の凌ぎ方も、恐らく同じだったのではないだろうか。
救済も断罪も解答もない。ただ事象のみが記されてある。
幾度でも読めるだろう。ときどきの自身に拠って、解釈も変わるに違いない。生きている本。〝虫〟に死は、訪れてくれないのだ。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
独文学・独文学関連
- 感想投稿日 : 2016年8月4日
- 読了日 : 2016年7月27日
- 本棚登録日 : 2016年7月27日
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