日本の近代 7 経済成長の果実―1955~1972

  • 中央公論新社 (2000年2月1日発売)
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日本の近代史を取り扱った中央公論新社の「日本の近代」シリーズの第7巻。高度経済成長が始まった1955年から、オイルショックによりそれが終焉した1972年までの17年間を取り扱っており、「大変化の時代」である高度成長期を政治史、外交史、経済史、文化史の観点から重層的に語られている。経済学者が担当した本だけあって経済史の記述のウェイトが大きい。

本書では、ブレトン・ウッズ体制が健在だった池田勇人内閣、過渡期としての佐藤栄作内閣、ブレトン・ウッズ体制崩壊後の田中角栄内閣の経済政策の比較検討がされており、興味深く読んだ。

池田内閣時代は形式的には均衡財政だが、内実は拡張的な財政政策だった。当時は経済成長率が高かったために、毎年補正予算を組んでも均衡財政を達成できた。また景気の微調整は金融政策で行われたという。次の佐藤内閣では、金融政策と財政政策の両方で景気調整が行われるようになり、財政政策は景気が良くなると財政を抑制的に、不況時には拡張的になるという反循環的な財政政策が採られるようになったようだ。

田中角栄といえば、「日本列島改造論計画」により、「狂乱物価」を招いたのが通説であるが、佐藤内閣末期に、1971年のドル・ショックに端を発する円切上げを回避するための内需拡大(経常収支黒字削減)を目的とした拡張的財政金融政策が行われており、すでにインフレ傾向の種子は巻かれていたようである。また田中の「日本列島改造計画」は、財政拡大を行うという期待形成が動き、実行前からインフレの加速がすでに始まっていた。「日本列島改造計画」自体はインフレ加速により、ほとんど実行されずに頓挫したようである。

他にも、戦後のパン食の普及には、戦後間もない頃から始まった学校給食でのパンの供給が大きく影響していること、55年8月にワルシャワでの開催以来、米中会談は断続的に100回以上も開かれており、ニクソン大統領の訪中が、全くの断絶状態から突然首脳会談という形で実現したわけではないことなど、初めて知るエピソードが合間に挟まれており、本書を読む上で良いアクセントとなった。情報量が若干多い本であるが、高度成長時代を知る一冊としてお薦めである。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本史
感想投稿日 : 2020年8月2日
読了日 : 2020年8月2日
本棚登録日 : 2019年8月28日

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